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首輪物語(前編)◆/VN9B5JKtM 病院を後にしたゼロは劇場の南に空いた大穴の傍に佇んでいた。 以前に劇場を訪れた時には探索を始めようとした矢先に四人組が現れたため、劇場内部や近くの大穴を調べる時間がなかった。 だがこの穴を見れば分かる通り、劇場付近で大規模な戦闘があった事は明らかだ。つまりこの辺りに死体が転がっている可能性が高い。 首輪を集めているゼロとしては、これを放っておく手はない。 ゼロは穴の中を覗き込む。 下には地下鉄のものと思われる線路が走っている。高さは十数mといったところか。ゼロは深さを確認すると、穴の中に飛び降りた。 この高さから飛び降りるなど常人なら自殺するようなものだが、KMFの一撃ですら傷一つ付かない魔王にとってはどうという事はない。 難なく着地したゼロが辺りを見回す。 見るからに酷い惨状だ。至る所に瓦礫が降り積もり、地面や壁には削り取られたような跡が残っている。 少し離れた所にはズタズタに引き裂かれたデイパックが転がっており、その周りに食料や水、コンパスや筆記用具といった中身が散乱している。 食料や水には余裕があるため、地面に落ちている物を拾う気にはならない。 地面に散らばる支給品の中でゼロの目に留まった物は二つ。 「ほう。この剣、使い勝手は悪くないな。こっちの球体は赤目の男が使用していた物か」 一つは大きさの割りに重さを感じさせない不思議な材質で出来た長剣、1st-Gと呼ばれる世界の半分を内に収めた概念核兵器、聖剣グラム。 そしてもう一つは赤と白の二色で塗り分けられた握り拳程の大きさの球体、ピカの入ったモンスターボールだ。 二つの支給品をデイパックに仕舞ったゼロは瓦礫の山に視線を向ける。 ここで戦闘があったのは間違いない。では戦闘を行っていた者達はどうなったのか。 支給品を不要と判断し、回収せずに立ち去ったか。あるいは―― ゼロの視線が一点で止まる。 その先にあるものは、瓦礫から突き出し真上に伸ばされた一本の腕。 ――死体となったか。 瓦礫の下敷きとなっていた男には見覚えがあった。 殺し合いの開始直後に古城跡で出会った参加者の一人だ。 もっともゼロにとってはナナリー以外の参加者が死んだところで何の感慨も無い。男の首を切り落とし、首輪を回収する。 地上に戻り劇場を探索していたゼロは、中央劇場の脇に建てられている墓を発見した。 盛り上がった土に墓標代わりに突き立てられた金属片が月明かりを反射し、黄金の光を放っている。 あれでは見つけて下さいと言っているようなものだ。 墓があれば当然その下には死体が埋まっている。ゼロは迷わず墓を暴き、その首輪を回収した。 そして今、劇場の探索を終えたゼロは中央劇場のホールで食事を取っていた。 これから古城に向かうつもりだが、あそこにはまだヴァッシュ・ザ・スタンピードが居るかも知れない。 負けるつもりなど無いが、身のこなしを見ただけでもヴァッシュは相当な強敵だと分かる。今の疲弊し切った体では苦戦は免れない。 病院での戦闘でガウェインも大破してしまった。砲台としての運用は出来るだろうが、直接戦闘には耐えられそうにない。 今は休息を取る必要がある。 食事を口に運ぶゼロの前には、これまでに集めた五つの首輪が並べられている。 ただ優勝すればそれで良いという訳ではない。 ギラーミンを殺し、その力を奪うため。体を休めている間にも頭を働かせる必要がある。 ◇ ◇ ◇ 「そう言えば、アンタの体ってどうなってるのよ? さっきまでボロボロだったくせに、今じゃ傷一つ残ってないじゃない」 美琴がそう尋ねたのには特に深い理由は無い。 瀕死の重傷を負わされた自分を死の淵から引き上げた異常な回復力。 それとラッドの再生力がどことなく似てるなぁ、と。まぁその程度だ。 自分の回復力もラッドと似たような力が働いているのかとも思ったが、数秒後にそれは無いだろうと思い直した。 並んで休んでいる間、美琴はラッドの血液が傷口に戻って行く様を目撃している。 着替える前には美琴の制服が血塗れだったのに対し、ラッドのスーツには流れ出た血の一滴すら残っていなかった。 この二つは明らかに性質が異なる。 回復と再生。修復と復元。作り直しと巻き戻し。傷が治るという結果は同じだが、その過程が全く違う。 だからこれは、本当に些細な興味から出た質問だった。 「ああ、コレか? いや、ギラーミンのクソ野郎にルーア殺されてよぉ、ブチ切れて『覚醒』しちまったみてぇなんだわ。 ホラ、本とかでよくあるじゃねぇか。恋人とかが悪役に殺されて、その怒りで秘められた力が目覚める……みてぇなの」 「そんな、マンガじゃあるまいし……」と口を開こうとして、喉元まで出かかった否定の言葉を飲み込む。 学園都市では電極やら薬物やらで脳に刺激を与えて超能力を開発している。 だが自然界で何らかの要因が重なった結果、脳に対して同様の刺激が与えられれば、超能力は発現するとも言われている。 『原石』と呼ばれる天然の能力者の事だ。 ラッドの再生力はそれではないのか? もちろん断定は出来ない。 この場には美琴の知らない能力者がゴロゴロしている。魔術師、アルター使い、ローゼンメイデンに魔王……探せば他にも居るだろう。 だが美琴の超能力も、それらの能力者も、ここに来る前から持っていた能力だ。 対してラッドが『覚醒』したのは、本人曰くこの殺し合いに呼び出されてからの事らしい。 それならば、あるいは本当に超能力に『目覚めた』のかも知れない。 「なぁ。そんな事より、メシ分けてくれねぇか? あの仮面野郎に荷物丸ごと持ってかれちまってよぉ。この槍しか残ってねぇんだ」 紅の長槍を肩に担いだラッドが考え込む美琴に声を掛ける。 確かに考えても答えが出る訳ではない。ラッドには並外れた再生力がある、今はそれだけ分かっていれば十分だ。 美琴も連戦で空腹を感じているため、食事を取るというのは賛成だ。周りが廃墟なのは頂けないが。 真紅のデイパックに荷物を移し変え、水、食料、地図、名簿など共通の支給品が入ったデイパックをラッドに放り投げる。 「おお、ありがとよ」 受け取ったラッドが中から食料を取り出す。世界各国に進出している有名チェーン店のハンバーガーが二つ。 冷め切って不味そうだが、美琴が食べる訳ではないのでどうでもいい。 美琴もデイパックに手を入れ、食料を取り出す。出てきたのは『みっちゃん手作り弁当(カナ用)』と書かれた紙が貼り付けてある弁当箱だ。 蓋を開けてみると確かに美味しそうなのだが、サイズが小さい。まず弁当箱からして子供用の小さいサイズだ。 中の食料まで真紅に合わせなくても良いだろう、と心の中でギラーミンに毒づきながら箸を進める。 しばらくは二人とも無言で食事を取っていたが、思い出したように美琴が名簿と筆記用具を取り出す。 「ねえ、ついでだし今のうちに参加者の情報を交換しない?」 「そうだな。今までみてぇに片っ端からぶっ殺すって訳にもいかねぇからな」 取り出した名簿を眺めるラッドの姿を見て、ふと美琴の頭にある疑問が浮かぶ。 「そうだ、アンタ名簿読めるの?」 「は? 当たり前じゃねぇか。英語が読めねぇアメリカ人なんて赤ん坊ぐらいだろ。 名前の並び順はよく分かんねぇけどよ。アルファベット順でもねぇし……」 「ちょ、ちょっと待った!」 手を伸ばしてラッドの名簿を引ったくる。 この名簿はさっきまで美琴が使っていたものだ。 放送で名簿にチェックを入れた時に目にした名前は全て日本語で書かれていた。 それがいつの間にか英語に書き換わっているなど、有り得るのか。 「……日本語にしか見えないんだけど。並びもアイウエオ順だし」 「あぁ? んなワケねぇだろ? どう見ても英語じゃねぇか」 ラッドが横から顔を乗り出して名簿を覗き込む。 美琴には日本語の名前が並んでいるように見えるが、どうもラッドには英語で書かれているように見えるらしい。 「じゃあアンタ、ひょっとして今も英語で喋ってるの……?」 「ああ。そう言うお前は日本語で喋ってんだな?」 美琴にはラッドが日本語で喋っているように聞こえる。同様に、ラッドには美琴が英語で喋っているように聞こえているのだろう。 どう見ても欧米人のくせに、やけに日本語が堪能だなぁと思っていたが、そうではなかったようだ。 魔術か、超能力か、アルター能力か、科学技術か、それとも他の方法か。 どのような手段を用いているのかは判然としないが、見聞きした言葉がリアルタイムで翻訳されているとしか考えられない。 「この首輪、中に翻訳機でも入ってるのかしら……?」 ◇ ◇ ◇ 「それで、このグラハム・スペクターって人はアンタの知り合いなのよね?」 ラッド達は当初の目的通り、参加者についての情報を交換する事にした。 言葉が通じて困る事もないので、言語の問題はとりあえず後回しだ。 「ああ。ついでに言えば殺し合いにも乗っちゃいねぇと思うぜ」 劇場でラッドが殺した少年は殺し合いに乗っているようには見えなかった。 そして彼はグラハムの事を仲間として信頼しているようだった。つまり、グラハムも殺し合いには乗っていないという事になる。 「他に知り合いとか、この会場で出会った参加者とかは居ないの?」 「そうだな。まずはゼロとか言う仮面野郎、コイツは文句なしにヤバイ。俺も職業柄ヤバイ奴は何人も見てきてるが、その中でもダントツだ。 そう言やぁ不死者っつーのはコイツの事だったんだよなぁ。ギラーミンの前にまずはコイツからぶっ殺してやらねぇとよぉ……」 思い出す度に沸々と殺意が湧き上がって来る。 あろう事か、奴はラッド・ルッソに向かって「自分が死ぬなど有り得ない」とまで言い切ったのだ。 生かしておく訳にはいかない。 どんな手を使ってでも殺さなければならない。 もちろんラッドもゼロの実力は十分に理解している。 秘められた力に『覚醒』したとは言え、今のままでは戦っても勝ち目は薄いだろう。 だが、その程度ではラッドを止める事は出来ない。 この溢れ出る殺意を抑える事など、出来るはずがない。 「そいつは私も知ってるわよ。で、他には居ないの?」 どうやって殺してやろうかと考え始めたラッドの意識を、美琴の声が引き戻す。 「ん? ああ。あとはさっきの四人組……一人死んで残り三人か。ラズロとメイド、それと宇宙人野郎だな。コイツ等も乗ってやがるよな」 「ラズロとメイドはいいとして、宇宙人……? ああ、あの白い奴ね」 この三人も間違いなく殺し合いに乗っている。出会えば戦闘は避けられないだろうが、その時は殺すだけだ。 ゼロほどではないにしろ、コイツ等に対しても殺意が溜まっている。 「ああ、もう一人居たな。黒スーツの野郎……確か一緒に居たガキがニコラスとか呼んでたな。ソイツは殺し合いには乗ってねぇと思うぜ。 どう見ても足手纏いのガキ共を連れてたしな。アスカとか言う奴の話はしただろ? ソイツが追っかけてたのがその黒スーツだ。 お前らのそっくりさんと、あとは鹿みてぇな奴が一緒に居るはずだぜ」 「初めてまともな情報が出てきたわね。ニコラス、ニコラス……あった。多分このニコラス・D・ウルフウッドって人ね」 この黒スーツには正直ムカついているが、戦力として見る分には文句は無い。 一緒に居た子供にも腕を切り落とされた恨みがあるが、こちらは役に立ちそうにない。 足手纏いになる前に殺しておきたいところだが、手を出せば黒スーツが黙ってはいないだろう。 機会があれば間引くつもりだが、その時には自分の仕業だとバレないように細心の注意を払って殺さなければならない。 ラッドの持つ情報はこんなところだ。 続いて美琴が口を開く。 「竜宮レナ、北条沙都子、古手梨花、ロロノア・ゾロ、トニートニー・チョッパー、アルルゥ、佐山・御言、小鳥遊宗太。 この八人は乗ってないらしいわ。真紅達から聞いた情報だから直接の面識は無いけど、出会えば協力できると思う」 「ふんふん、コイツ等は乗ってない、と」 一応名前に○をつけておくが、実際に見るまでは判断できない。 殺し合いに乗っていない参加者でも、足手纏いになるような奴はギラーミンを殺すのには邪魔になるだけだ。 「要注意人物はヴァッシュ・ザ・スタンピード、水銀燈、それと火傷顔の女、この三人よ」 「火傷顔の女? ソイツなら俺がぶっ殺したぜ。大砲でドカンってよぉ」 実際はバラライカは第二回放送後まで生きていたのだが、そんな事は二人には分からない。 「あとはライダーって言う大男、それと顔の上半分を白い仮面で隠した男ね。この二人は乗ってないと思うんだけど、まだ確実じゃないわ」 「仮面だぁ? おいおいおい、あのゼロとか言う野郎以外にもそんな奴が居んのかよ? アイツは自称・魔王だったよなぁ。じゃあ白い仮面のソイツは何なんだ? まさか神様だとか言い出すんじゃねぇだろうなぁ? ヒャハハァ!」 ラッドが冗談めかして笑う。 実際、口にした本人も信じていないのだろう。 とりあえず、これで参加者についての情報交換は終了した。 色々なチェックの入った名簿を何とはなしに眺めていたラッドだが、ふとその事に気付き表情を険しくする。 「おいおい、何で居ねぇんだよ……?」 何度も見直すが、間違いない。 あるはずの名前が無い。 「居ないって、誰が?」 「何回見てもよぉ、ルーアの名前が載ってねぇんだよ。デューンの奴もだ」 この名簿には全参加者の名前が載っているはずだ。 ルーアとデューンも参加者として集められたのなら、ここに名前がなければおかしい。 「ルーアって……アンタの、恋人さんよね。デューンってのは?」 「最初の部屋でギラーミンに殺された車掌服の男がいただろ? アイツだよ」 そう答えてから気付く。 ルーアは首輪を爆破されて殺された。これは爆弾の威力を見せつけるためだと考えれば分かる。 到底許せる事ではないが、まだ理解は出来る。 ではデューンは? なぜデューンは殺された? 「ああ、あのギラーミンを撃とうとして逆に撃たれた……」 「それだよ」 美琴の言葉を遮って、ラッド・ルッソは大いに語る。 「おかしいと思わねぇか? デューンはギラーミンを『撃とうとした』んだぜ? そう、デューンは銃を持ってたんだ。 俺達の武器は全部巻き上げられてたが、デューンだけは懐の銃を取り上げられる事はなかった。なぜだ? 隠し持ってた銃には気付かなかった? ありえねぇ。そんなのはちょっと調べれば分かる事だ。よっぽどのマヌケでもやらかさねぇぜ。 それなら何でデューンは銃を持っていたんだ? ギラーミンがわざわざ持たせてたとしか思えねぇ。じゃあ何のために?」 ラッド達はいつの間にか眠らされ、あの部屋に連れて来られた。ギラーミンにはデューンが寝ている間に銃を奪う事ぐらいは出来たはずだ。 事実、ラッドが身に付けていた武器は全て没収されていた。恐らく他の参加者達も丸腰だったのではないか。 ではなぜデューンだけが銃を持たされていたのか。 「ギラーミンにはあそこでデューンが銃を向ける事が分かっていた。その上で、デューンに銃を持たせてたんだ。 ……自分の手でデューンを撃ち殺すために」 ラッドの出した答えは、デモンストレーション。 ギラーミンが自ら射殺する事で、己の残虐性を見せ付けるための生贄。 参加者達の恐怖を煽り、殺し合いを円滑に進めるための起爆剤。 「つまりだ。アイツらは最初からあの場で殺されるためだけに集められたんじゃねぇのか、って事だ」 その程度の事、少し考えれば分かっただろうに。 思えば熱くなり過ぎて、名簿の確認すらしていなかった。 いや、恐らくギラーミンはそれすらも見越していたのだろう。 頭が冷えれば気付くだろうが、それまではギラーミンの思惑通りに他の参加者を殺して回り、殺し合いを加速させると。 最初からラッドをその気にさせるためだけにルーアを殺し、自分はそれにまんまと乗せられたという事だ。 「ヒ、ハハッ、ヒャハハッハハァ……ヒャァァッハハハッハハッハッハハハハ!!!」 とんだピエロだ。 余りの滑稽さに笑いが止まらない。 今の今まで自分の意思で行動していたつもりだったが、その実ギラーミンの掌の上で踊らされていただけだったのだ。 「ハハハッハハァ……。ああ、初めてだぜ。俺をここまでコケにしたクソ野郎は……! コイツはじっくり、ゆっくり、タップリと時間を掛けて殺してやらねぇとなぁ。この世に生まれてきちまった事を後悔するまでよぉ……!」 狂ったように笑い続けるラッドの前に、恐る恐るといった風に一枚のメモが差し出される。 目を通すと『重要な話がある。盗聴されている可能性があるから筆談で話すようにしよう』といった内容が書かれていた。 ラッドがメモと筆記用具を取り出すのを見て、美琴が溜息を吐く。 『これから私達がしなきゃいけない事は大きく分けて三つ。 一つ、首輪を外す。二つ、ギラーミンの居所を突き止める。三つ、二度とこんなふざけた真似が出来ないようにこの殺し合いを徹底的に破壊する』 『おいおい、大事な事が抜けてるぜ。四つ、ギラーミンのクソ野郎をブチ殺す。コイツは確定事項だ』 こればかりは譲る訳にはいかない。 ギラーミンだけは、自分の手で殺さなければならない。 ラッドの胸の内に、ゼロに対するそれとは比較にならないほど濃密な殺意が渦を巻く。 『まあそれは置いといて、ギラーミンの居場所なんだけど。この会場は端でループしてる、そして私はループの『装置』が地下にあると思ってる』 『つまりアレか? その『装置』をぶっ壊せばループが消えて、ギラーミンの野郎の隠れ家が丸見えになるって言いてぇのか?』 美琴は無言で頷き、肯定の返事を返す。 なるほど、丸っきり考えなしにギラーミンに反抗しようと言っていた訳でもなかったのか。 『それで、首輪の事なんだけど……アレを見て』 指差された先に目を向けて、美琴の言いたい事を理解する。 なるほど、確かに首輪の事だ。 ラッドが目線を向けた先。 開始直後に春日歩の手によってその生を終えた少年、ジョルノ・ジョバァーナの死体がそこにあった。 ◇ ◇ ◇ これからゼロのするべき事は四つ。 一つ、首輪を外す。二つ、身体の制限を解除する。三つ、参加者を皆殺しにして優勝する。四つ、ギラーミンを殺して『力』を手に入れる。 まず一つ目だが、首輪は優勝するまでに解除しておかなければならない。 この首輪がある限り、ゼロの命はギラーミンに握られているも同然だ。その気になれば、今こうしている間にでもゼロを殺す事が出来る。 たとえ殺し合いで優勝したところで、その時にゼロの首に首輪が嵌まっていればスイッチ一つで勝負が決まってしまう。 この首輪を外さない限り、ギラーミンと戦っても勝ち目は無い。 次に二つ目、身体に掛けられた制限の解除。出来ればこれも早めに行っておきたい。 この会場に転移させられてからというもの、身体能力、瞬間移動など魔王の力が大幅に制限されている。 そのせいで、本来の実力なら相手にもならないような参加者にまで苦戦を強いられる有様だ。 参加者を皆殺しにするためだけではない。優勝後にギラーミンを殺すためにも、身体の制限は邪魔にしかならない。 万が一にも失敗は許されない以上、勝率は少しでも上げておきたい。 そして三つ目、他の参加者を皆殺しにして優勝する。 ゼロの目的はあくまでナナリーを蘇らせる事であり、それが叶うのならば殺し合いへ反逆しようが優勝を狙おうが、どちらでも構わない。 もし今すぐにギラーミンを始末し、ナナリーを蘇生させる方法があるというのならば、ゼロは即座に殺し合いを止めてそちらの手段を選ぶ。 だが現状ではこの会場がどこなのかも、自分達がどうやってここに連れて来られたのかも、ギラーミンの居場所さえも、全く分からない。 仮に殺し合いを打破できたとしても、肝心のギラーミンが見つからずナナリーの蘇生が叶わない、などという事態になれば何の意味も無い。 そうなればお手上げだ。いくらゼロでもどこに居るのかすら分からない相手を探す事など出来ない。 ならばナナリーを蘇らせるためには、この殺し合いで優勝する事が最も手っ取り早く、可能性の高い方法だろう。 優勝者と戦うなどというギラーミンの言葉を信じる訳ではないが、優勝すれば何らかの接触があるはずだ。 もし優勝しても何の接触もなければ結局は自力でギラーミンを探し出して殺す必要があるが、その前に打てる手は打っておくべきだ。 最後に四つ目、そしてゼロの最終目標。ギラーミンを殺して『力』を手に入れる。 現時点ではギラーミンに関する情報はほとんど無いが、ゼロはギラーミンという人間それ自体は取るに足らない存在だと認識している。 ギラーミンは最初の広間で二人の人間を殺して見せたが、その一部始終を見てもゼロはギラーミンに対して何ら脅威を感じる事はなかった。 正直あの程度ならば首輪さえ外せばどうにでもなる。殺し屋などと言っていたが、ギラーミンにゼロを上回る程の実力があるとは思えない。 だがギラーミンがいつの間にか60名以上の参加者達を集め、殺し合いをさせているというのもまた事実だ。 それに加えてギラーミンの「自分を殺せばあらゆる願いを叶える事の出来る『力』が手に入る」という発言。 この事から、ゼロは『ギラーミンの背後に強大な力を持つ何者かが居る』か『ギラーミンは願いを叶える道具を持っている』と予想している。 前者ならばギラーミンを始末する事は容易い。その後に背後に居る何者かが願いを叶えてくれるかは分からないが、そこは交渉するしかない。 だが後者なら、ギラーミンを殺して『力』を奪う必要がある。最悪の場合、死者をも蘇らせる『力』と戦い勝利を収めなければならない。 いずれにせよ、まずは参加者全員の首に嵌められているこの首輪、これを解除しない事には戦いにすらならない。 ゼロは首輪解除への手がかりを探るべく、首輪の機能を推測する。 ◇ ◇ ◇ 『実際にルーアの首が吹っ飛ばされてんだ。首輪の中に爆弾が入ってるってぇのは間違いねぇよな』 ラッドのメモを見て頷きを返すと、美琴は少年の死体、より正確に言えば彼の首に嵌まっている首輪に意識を向ける。 美琴の能力『超電磁砲』は電流や電磁場を観測し、操る能力だ。 学園都市のようにそこら中に電波が飛び交う街中ではノイズが多過ぎて判断できないかも知れないが、この会場のように電波を発する機械類がほとんど無い場所でなら首輪が電波を発しているかどうかぐらいは分かる。 少年の首輪からは電波を感じ取る事は出来なかったが、自分とラッドの首輪からは電波を送信しているのが確認できた。 流石に内容までは分からないが、恐らくは参加者の音声データなどをギラーミンに送っているのだろう。 禁止エリアに侵入すれば警告のアラームが鳴り、30秒後に首輪が爆発する。ギラーミンはそう言っていた。 ではどうやって参加者が禁止エリアに侵入したかどうかを判定しているのか。 美琴が考えた可能性は二つ。 一つは禁止エリア内には信号を発する『何か』が充満しているという可能性。エリア内に侵入すれば首輪が信号を受信し爆発するという仕組みだ。 だが美琴はこの可能性は低いと見ている。 首輪は何らかの電波を送信している、それは確実だ。ならば首輪を爆破する信号も電波で受信しているのではないか。 そうだとすると正方形の禁止エリア内にだけ電波を閉じ込めている事になるが、少なくとも美琴の知る限りではそんな事は不可能だ。 あるいは美琴が知らないだけでそのような方法があるのかも知れないが、それでも膨大な手間がかかるのは間違いないだろう。 それよりも簡単で現実的な方法がある。それが美琴が考えたもう一つの可能性。 『ええ。それと禁止エリアへの侵入を判定するために、現在位置をギラーミンに知らせる発信機のような機能もあると思うわ。 そして参加者が禁止エリアに立ち入ればギラーミンから信号が送られてきて、首輪が爆破される。その信号を受け取る受信機もあるはずよ』 この殺し合いが始まった直後、美琴は電磁波をぶつけて首輪の内部構造を探ったり、起爆装置を破壊したりできないかと考えた。 電流を流して首輪の機能を壊すという考えも浮かんだが、それは砂の男が首輪の爆発で死亡した時点で却下されている。 美琴は首輪に電磁波をぶつけて内部構造を探ってみる事にする。 下手に手を出せば即座に爆発する可能性があるため生きた人間では試せないが、死体の首輪なら爆発しても被害は少ないだろう。 この少年の知り合いに出会った時には文句を言われるかも知れないが、その時は謝って許してもらうしかない。 美琴は少年の首元に意識を集中させて電磁波を飛ばす。 徐々に出力を強めていくが、電磁波は僅かたりとも首輪を透過せず、依然として内部の構造は不明だ。 どうやら首輪は通信に使用している電波は通すが美琴の電磁波は遮断するような金属で覆われているらしい。 予想はしていたものの、もしかしたらという期待もあったためやはり落胆は隠せない。 それとも爆発しなかっただけマシだと思うべきなのだろうか。 『盗聴器と翻訳機も付いてるかも知れねぇんだよな。こんな小っせぇのにすげぇ技術力だよなぁ』 『それだけじゃなくて死んだ人間の首輪は機能停止するようになってるみたいよ。参加者の生死を判定する機能もあるんじゃないかしら』 この殺し合いでは六時間毎に放送で死者の名が発表される。つまりギラーミンには誰が生きていて誰が死んだのかが全て分かっているという事だ。 そのための機能、参加者の死亡を判定するための装置も搭載されているはずだ。 ラッドが少年の横にしゃがみ込むと、首元に槍の穂先を押し当てる。 何をするつもりか、考えるまでもない。 一瞬ラッドを制止しようかとも思ったが、自分も爆発しても仕方ないといって電磁波を飛ばしたなと思い直す。 どの道首輪は必要になるのだ。 自分が今するべき事はラッドを止める事ではない。 少しでも首輪解除の手がかりを掴むべく、思考を働かせる事だ。 少年の首を切り落としているラッドの肩を叩き、メモを見せる。 『ねえ、人殺しとしてのアンタの意見が聞きたいんだけど……ギラーミンはどうやって参加者の生死を判断してると思う? 例えばアンタが誰かを殺そうとして頭を殴ったら、その人は倒れて動かなくなった。そんな時、どうやって死んだかどうか確認するの?』 『さぁな。わざわざ確認なんざしねぇで頭か心臓に鉛弾ブチ込んでやるんじゃねぇか? それなら生きてるかどうかは関係ねぇからなぁ』 返って来た答えを見て、美琴は頭を抱える。 『ああ、もう! そういう事を言ってんじゃないっての! じゃあアンタの知り合い! さっき言ってたグラハムって人が目の前に倒れてたら?』 『そりゃあ流石に止めを刺すって訳にもいかねぇよなぁ。そうだな、その場合は……』 ◇ ◇ ◇ (心臓、だろうな) ゼロの予想では、死亡者の首輪は機能を停止する。 首輪には参加者の生死を判定する機能が備わっていると見て良いだろう。 ではギラーミンは何を以て参加者の生死を判断しているのか。 それに対するゼロの答えがこれだ。 古来より、人間の生死は心臓が動いているかどうかで判別されてきた。 医療技術が発達した近代では心臓が停止しても命を繋ぐ方法はあるが、この殺し合いでは心停止=死亡と言えるだろう。 何より参加者を拘束する装置は『首輪』だ。 ゼロはそっと自らの首に指を当てる。トクン、トクンと一定のリズムが伝わってくる。 そう、首には動脈がある。首輪を通して脈を測る事ぐらいは容易いだろう。 首輪には「爆弾」「発信機」「受信機」「脈拍測定器」の四つは確実に搭載されていると見て良い。 他に搭載されていそうな機能としては「監視装置」「制限の発生装置」辺りだろうか。 ある程度の予想は出来るが、これ以上は実際に首輪の中身を見てみなければ分からない。 今までに手に入れた首輪は五つ。古城の『○』型のくぼみに三つ使用するとしても、まだ二つ分の余裕がある。 それに、どうせこの先も出会った参加者を殺していくのだ。首輪を手に入れる機会はいくらでもある。 ならば今ここで一つぐらい消費したところで大した問題にはならないだろう。 ゼロは目の前の首輪を一つ手に取る。 起動中の首輪を無理矢理に外そうとすれば爆発するだろうが、機能停止した首輪が爆発するかどうかは分からない。 ギラーミンが首輪の停止=参加者の死亡だと考えているのなら、わざわざ停止した首輪を爆発させる必要は無いとも言える。 ならば、死亡者から回収した首輪は爆発しない可能性もある。 そうだとすれば、首輪を分解すればその内部構造を知る事も可能だ。 試す価値はある。 ゼロは僅かな手がかりも見逃さないよう、手にした首輪をじっくりと観察する。 (……おかしい。どこにも継ぎ目が見当たらない) 首輪に継ぎ目が無い、それ自体は何もおかしい事ではない。首輪の表面を金属でコーティングすれば継ぎ目を隠す事ぐらいは容易い。 ただし、その首輪が参加者の首に嵌められていたとなると話は別だ。 人間の首に首輪を嵌めるためには、一度首輪の一部を開かなければならない。その際に、どうしても首輪のどこかに継ぎ目が出来るはずだ。 だが死体の首から回収した首輪は目で見ても、指で触れても、どこにも継ぎ目が無い。 金属の隙間から首輪をこじ開けようと思っていたのだが、当てが外れた。 ゼロは首輪を置き、道具置き場から引っ張り出して来た大道具を重しとして固定する。 そしてデイパックから鉈を取り出すと、その先端で首輪を引っかく。 表面に切れ込みを入れ、そこからこじ開けようという考えだ。 だが、ガリガリと金属同士の擦れ合う音が響くのみで首輪には傷一つ付かない。 (仕方ない。爆発の可能性は高まるが、少々手荒に行くしかないか) 当然だが、爆発した首輪の残骸よりは爆発させずに分解した首輪からの方が多くの情報を得られる。 そのためゼロは出来れば爆発させずに解体したいと思っていたのだが、この際そうも言っていられない。 爆発した首輪の残骸からでも、首輪そのものよりは多くの情報が得られる事は確かだ。 幸いここは防音設備の整った劇場だ。首輪が爆発しても、その音が建物の外にまで聞こえる心配は無い。 手に持った鉈を振り上げる。 この距離なら首輪が爆発しても自分がダメージを受ける事はないだろう。 恐らく首輪に搭載された爆弾は効率的に参加者を殺すため、内側に向けて指向性を持っている。 それならば外側に対してはよほど近く、それこそ直接触れるぐらいの距離で爆発しない限りは大した破壊力を持たない。 念のため体の前にマントを広げ、爆発した時に破片を浴びないようにする。 一つ息を吐き、腕を振り下ろす。 ◇ ◇ ◇ ラッドは首輪を回収するため、刃のすぐ後ろを握って柄の長いナイフのように扱い、死体の首を切断していく。 槍は剣や刀に比べると切断に適した形状とは言い難いが、手持ちの刃物はこれしかないので仕方ない。 そうして首を切り落とした直後、ふとした弾みで槍の穂先が銀の円環に触れた。 その時だ。 ほんの一瞬だが銀色の輝きが曇り、その下から剥き出しの機械部品が顔を覗かせた。 槍が触れた辺りだけ、まるで首輪の表面に施されていたメッキが瞬間的に剥がれ落ちたように、鉛色の金属が見えたのだ。 (あぁ? 何だ、今のは?) ラッドは金属が覗いた部分を注視するが、首輪は先程までと同じく月の光を浴びて銀色に輝くばかりで傷一つ見当たらない。 手を伸ばして首輪の表面を撫でてみても滑らかな手触りが返ってくるだけで、おかしな所は何も無い。 では目の錯覚か? いやいや、いくら辺りが薄暗いからといっても、流石にこの距離で見間違えるほど落ちぶれてはいないつもりだ。 (って事は、この槍が『そういうモン』だって事か?) ラッドは知る由も無いが、その長槍は第四次聖杯戦争におけるランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナの扱う二槍のうちの一振り。 セイバーが魔力で編んだ鎧を容易く貫き、風王結界に包まれた聖剣を露にし、バーサーカーの宝具すらも無効化する真紅の魔槍。 刃が触れた物の魔力の流れを遮断する宝具、破魔の紅薔薇だ。 ラッドは回収した首輪を地面に置くと、槍の穂先をゆっくりと近づけていく。美琴はラッドの前に座り込み、不思議そうにその様子を見ている。 槍の刃先が首輪に触れると、その周囲だけ銀色の輝きが消え失せ、中からは灰色の地金が現れた。瞬間、向かいから息を飲む音が聞こえて来る。 槍を離すと首輪の表面は再び銀色の金属で覆い隠され、何事もなかったかのように元の輝きを取り戻した。 ニタァ、と。心底嬉しそうに、ラッドの口元に笑みが広がる。 殺し合いに反抗したとして本当にギラーミンを殺せるのか疑問だったが、思ったよりも早く首輪解除への足がかりが出来たようだ。 この槍は、少なくとも死亡者の首輪――死ねば首輪は機能を停止するらしい――に関しては、その表面を覆う金属を消し去る効果がある。 となると次は起動中の首輪――つまりは生きた人間の首輪――に触れさせるとどうなるのかが気になってくる。 果たして同じように中身を剥き出しにする効果があるのか、それともアラームか何かで警告された後に首輪を爆破されるのか。 幸い実験台は目の前に居る。流石に槍が触れた瞬間にドカンといく可能性は低いだろうが、それでも自分の首輪で試したいとは思わない。 (ひょっとしたらいきなり爆発しちまうかも知れねぇが、まぁその時はその時だ。短いつきあいだったな、ミサカ・ミコト) 未だポカンとした顔で首輪を眺めている美琴の首元に紅の長槍を近づける。 穂先が首輪に触れそうになったところでラッドが何をしようとしているのか気付いたのか、美琴が慌てて槍を掴む。 『おいおい、そう遠慮すんなよ』とニヤニヤ笑いながら槍を突き出す。 『嫌よ。やるなら自分の首輪で試しなさいよ』との意思の篭った視線が返される。 『バカ言うなよ。それで爆発しちまったらギラーミンのクソ野郎をぶっ殺せねぇだろ』と槍に力を込める。 『知らないわよ。私だってまだ死にたくないんだから』と言わんばかりに押し返される。 『なぁに、心配しなくても死んだら仇ぐらいは取ってやるよ』と体重をかけて槍を押し込む。 『ふざけんじゃないわよ』とでも言いたげにバチリと火花が散らされる。 これ以上続ければ本気で雷撃が飛んで来かねないので、仕方なく槍を引いて肩に担ぎ直す。 もちろん実験を諦めた訳ではない。どうせいつかは試さなければならないのだ。爆発したとしても、今死ぬか、後で死ぬかの違いでしかない。 ラッドはポケットからコインを取り出すと、掌に乗せて美琴の目の前に差し出す。公平にコイントスで決めようという意思表示だ。 それを受けた美琴はコインの表を上にすると、その表面を指先でトントンと叩く。表を選ぶという事だろう。 ラッドも同じようにコインを引っくり返し、裏面を指先で軽く叩く。 二対の視線が交差する先、突き出した握り拳にコインを乗せ、親指で弾き上げる。 チャリン、と小さな金属音を鳴らし、コインが宙を舞う。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back 三つの湖 Side-A Next 首輪物語(後編) 投下順で読む Back 三つの湖 Side-A Next 首輪物語(後編) Back Next 裏表トリーズナーズ(後編) 御坂美琴 首輪物語(後編) 裏表トリーズナーズ(後編) ラッド・ルッソ 首輪物語(後編) あなたに会いたくて ゼロ 首輪物語(後編)
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CIRCLE RHYTHM ~ブレイス・オブ・ピリオド~ ◆YhwgnUsKHs 『 ♪ ♪ ♪ 『←Past―』 【舞曲(ボレロ) ~四重奏・Ⅰ~】 「く、そ!」 既に右腕のシェルブリットを展開した男、カズマは先刻グラハムによって強打された脇を抑えながら立ち上がった。 不覚だった。まさかファーストブリットを直撃させる寸前に男に割り込まれ、しかもよりにもよって先の乱戦で銃弾を受けたところを剣で思い切り叩かれてしまった。カウ ンターの勢いによるダメージ増加もそれを助け、強烈な痛みがカズマの脇に襲い掛かった。さすがのカズマも、一旦距離を置くしかなかった。 手で押さえている箇所から血が滲んできていた。撤退するべきか?そんな言葉がカズマの脳裏を―― 「ふざけるんじゃねえ」 わずかな可能性を、カズマはシェルブリットを構えることで捨て去る。グラハムたちは何やら3人で集まって何か話している。時折驚いた声や悲痛な声が聞こえるが、カズ マにとってはどうでもいいことだ。 全員倒す。それ以外に何を考える必要がある。脇の傷も自身の疲労も、それを止める理由にはならない。 (前へ、前へだ。決して退くな。俺の目の前の壁って奴を) カズマとは、そういう男なのだから。 「うおおおおおおおおおお!!」 カズマはシェルブリットの拳をゆっくり握り締めると3人向けて走り出した。その様は、まるで弾丸。シェルブリットの様だけでなく、彼自身が弾丸のように突き進む。敵 意と殺意を引き金に、意志を火薬に飛んでいく。まさに弾丸。 「!」 「ほら、もう時間がない。今あんたにできる最良はそれだけだと俺は思うんだが」 「……チョッパーくん……」 「っ!! ちっくしょおおおおおおおおおおおおおお!!」 対する3人の反応は、極めて迅速だった。 悔しそうに叫び、泣きそうな顔をしたチョッパーは四足歩行のトナカイに姿を変えて、 こちらは一見泣いてはいない、だが、目はグラハムに対して悲しそうな視線を向け、唇は無意識に噛み締められていた、そんな表情のレナは、チョッパーの変身が終わるや いなやその背中に飛び乗った。 カズマは判断する。逃げる気か、と。 「させると思ってんのかよ!!」 逃亡を許すわけにはいかないと、カズマはシェルブリットの発動を―― 「違うな、ツンツン野郎」 そこに、再び割り込む影。 デジャヴのようなその光景。女を攻撃しようとして、別の影が割り込んでくる。 最後の1人、グラハムは、剣を構えてカズマへとその剣を振りかぶった。 「っ!」 だが、カズマとて歴戦の強者、二度も同じ奇襲は喰らわない。腹へと迫る刃はこちらを向いていなく、剣の腹が向いている。さっきもなぜかそうだった。ならば―― カズマの足がすかさず振り上げられ、グラハムの剣の腹をその靴で受け止める。 (ッ!なんて、力だ!) グラハムの贅力により引き出されたパワーに、カズマはわずかに顔を顰めた。 (クッ!) 悔しそうに顔をゆがめると、剣の腹を思い切り蹴り飛ばして後方へ飛び、着地した。前のめりに姿勢を留めたままで。 勢いを殺したことで、ダメージは防げた。だが、その代償は 「絶対、絶対だぞ! 絶対戻ってこいよ!」 「グラハムさん! 絶対、絶対助けを――」 「おっと、それ以上は駄目だ。命の恩人A。奴に聞かれてしまう」 「っ! ……ごめんなさい……!」 トナカイとその背に乗った女が悲痛な声を残しながら、高らかな音を残して走り去っていく。その速度たるや、先のカズマ以上。流石馬とよく似たフォルムを持った動物 なわけはある。 そして、残ったのは――2人の男。 「てめえ……」 「ああ、そういえば……まだ話の途中だったな。どこまでだった?『悲しい、悲しい話を』……あ、これは戻りすぎているなと俺は自分で気づいてしまった。『ああ、そうい えば』……ああ、駄目だ。これは戻ってもいない。くそ、続けるはずだった話は現在と過去の間に消え失せたというのか!? む、今俺は凄い哲学的なことを言ってしまった 気がするぞ!」 アホなことをつらづら言っているグラハムにカズマは構わない。 目の前の壁が、さらにわかりやすく壁になっただけ。なら、自分がすることはまったく変わらないではないか。 そして、この壁は、強い。だが―― 「ああ、そうだ。思い出した」 独特の青繋ぎのところどころは裂け、そこから見える肌からは血が滲んでいる。 頭からも血が流れており、流れた血がグラハムの頬を赤く彩る。 「『違うな、ツンツン野郎』、からだったな」 いくら直撃を逸れたとはいえ、発動させたシェルブリットの一撃。それは、グラハムのすぐ横の道路に直撃した。 「逃げさせると思っている、んじゃあない」 シェルブリットによって散った道路の瓦礫を、グラハムが避ける手段は――――なかった。 グラハムが無傷でいられるわけがなかったのだ。 「逃げさせるんだ、この俺が」 ****** 「くそぉ!ちっくしょぉ!」 2人の対峙する場から逃げ出したレナとチョッパー、そのうちチョッパーは走りながら泣いていた。 本当ならばグラハムを見捨てたくなかった。傷だらけのグラハムを残していくなんて。 でも 『俺と命の恩人A、2人とも載せて速いとは思えない。あの男に追いつかれてしまうだろう』 理屈はわかる。 自分にできることは、これしかなかったのだと。援護は出来ない。共に戦おうにも、自分にはランブルボールがない。チョッパー自身が作り出した、悪魔の実の波長を狂わせる劇薬。それにより彼は、3形態への変身だけでなく、7形態へ変身する事ができる。それにより引き出される力は、亡国の悪臣チェスマーリモ、空番長ゲダツをも単独で撃破せしめたほどだ。だが、逆を言えば、そのランブルボールがなければチョッパーの戦闘力は激減する。そして、今がまさにその状態だ。 彼に残されたのは、グラハムが提案した方法だけだった。 『命の恩人Aと共に劇場へ向かい、救援を呼べ』 既に劇場にはレッドとイスカンダルが到着しているはずだ。ならば、彼らに救援を求めるのが今できる最善。特にイスカンダルの力は誰もが(グラハムは『悔しいが』とつけた)認めている。ここから劇場までそう遠くはない。妥当な選択と言えるだろう。 だが、レナは苦言を呈した。『レッドくんたちが劇場にいるかどうかわからない』と。何か不測の事態が起こり到着が遅れることだって考えられる。今の自分達がまさにそうではないか。 だが、グラハムは頑なで、かつ狡猾だった。カズマが立ち上がるまで間がないことを強調し、2人を焦らせた。このまま迷ったままここで3人ともにいるか。戦えない自分達では足を引っ張る。援護できる武器は強力過ぎて使えない。ならどうする。 2人は、少しでもグラハムを助けられる道を選んだ。 そして、その為にグラハムが残らなければならないことを。彼の力を信じて。 けれど 「レナ!おれ、急ぐから!全力で走ってやる!絶対、絶対イスカンダルをつれてきて、グラハムを助けるんだ!」 チョッパーは泣きながらも前を見据える。転んだりなんてしないように。 泣きながら足に力を込める。少しでも速く進める様に。 泣きながら叫ぶ。自分の意志を確かめる為に。 「…………」 「レ、レナ!? レナ!」 「あ……ご、ごめん。チョッパーくん。そうだね、速く劇場に行かないと」 「ああ!」 チョッパーのけむくじゃらの背中にしっかりしがみつきながら、レナは思う。 (また、私は……) 【仲間を増やすって意気込みながら……結果が、仲間を見捨てて自分は逃亡。ははっ、素晴らしい喜劇だわ、ぱちぱち】 (うるさい……うるさいうるさいうるさい!!) 目を瞑り、苦悶に顔を歪める。 頭二響く声、一体これは誰なのか。 どこか聞き覚えのある声なのは、気のせいか。 (私は、私は助けを呼びにいくの! 見捨てたんじゃない!) 【なら、なんでそんな苦しそうなの? 後ろめたいんでしょ? 認めちゃいないよ、偽善者】 (黙れ、黙れ、黙れ!) ひた走るチョッパー。その背で、罪悪感を刺激するあらぬ声に苦しむレナ。 そんな彼らの元に、さらなる悲報が襲い掛かる。 『ごきげんよう諸君』 ****** 「うおおおおおおおお!!」 「るああああああああ!!」 二つの力が激突する。 1つは、カズマのシェルブリットの拳。もう一つは、グラハムの振う宝具『アロンダイト』。片やアルター、片や英霊の振う宝具。強度においては優劣は着けがたいだろう。 だが、力はどうか。シェルブリットは当然その力は攻撃にこそ特化する。力が弱いわけがない。だが、グラハムの方は宝具を使っているとはいえ本人自身は特に能力はない。 常人よりは強く、ラッドをして『俺より喧嘩が強い』と言わしめるとはいえ、真っ向からシェルブリットのパワーに対抗できようはずがない。勝負はグラハムに不利に思える。 真っ向からぶつかれば、だが。 「ッ!!」 拳をグラハム向けて繰り出したカズマはまたも起こった結果に対して歯噛みする。 迫る拳に対してグラハムが行った行動。それはアロンダイトで攻撃する、ただそれだけ。 ただし、相手はシェルブリットの拳ではなく、それより先――腕自体。シェルブリットで包まれているはずのその腕に、剣が命中する。もっとも、刃を向けていないが。 だが、逆を言えば……面積の広い腹である分、打ち払う分においてはこの方が効果的だ。 ガキィッ、と言う鋼と鋼がぶつかるような音が響いた。 シェルブリットの拳も、その砲台である腕を揺るがされては照準はズレる。結果、拳はグラハムに当たらずあらぬ方向へと向かってしまう。 勿論、素人がマネした程度ではこのようなことはできない。これができるのはグラハムが的確なポイントを狙っているからだ。拳に力を込め、1番力を入れるポイントを。 破壊することに特化した男は、そのポイントを理解していた。攻撃において脆いポイントを。 空を切る拳。その隙に、打ち払った力を利用してグラハムがくるりと回りもう片方の手何かを突き出してくる。 (させるかよ!) カズマはとっさにそれを左手で打ち払おうとした。それは成功し、グラハムの手は宙へと払われた。 ただし、ゴキッ、という鈍い音と、激痛と共に。 「ッ!!!!!!」 ニヤ、と笑ったグラハムに向けてカズマは激痛に顔を歪めながらも蹴りを繰り出した。蹴りはグラハムの腹に命中し、グラハムが後ろに吹き飛ぶ。だが、すぐに着地し笑みを浮かべている。 (後ろに飛んで当たりを浅くしやがった、かっ……にしても、くそっ) 激痛が未だに走る。その元はグラハムの武器を払った左腕。その左腕がだらんと下がっている 関節が、外された。しかも腕を払ったはずのあの一瞬で。 (違う……あいつ、払われたふりをして……!) 余裕の笑みを浮かべるグラハムを見やる。右手には黒剣アロンダイト。そして、左手には――小型レンチが握られていた。 どう見てもそれしか握っていない。つまり、それを突き出してきてカズマに払われたと見せかけ、一瞬でカズマの関節をレンチで挟み、的確に外した。神業、という呼び方 すら生ぬるいかもしれない技術だった。壊すことに特化するグラハムだからこそ、できたことだ。 「どうしたツンツン頭。派手な鎧も、当たらないと意味がないな」 「……! ツンツン頭じゃねえ、カズマだ」 「そうか。俺はグラハム・スペクターだ。よろしくはしねえがな、カズマ」 怒りに顔を歪ませるカズマ、対してそのカズマを見やるグラハムは笑っている。そしてその笑みのまま、誰ともなく呟いた。 「しかし、なんだかいつもよりやけに体が軽い気がするな。それに……なんだ?アイツのあの輝いて見えたり濁ったり見える部分は」 グラハムには相対するカズマのシェルブリットを纏った左腕、そこが煌びやかに輝いて見えている。同時に、剣を叩き込んだ脇腹や、左肩は濁って見えている。 カズマと戦闘を始めてから見え始めた異常だった。 「これは、まさか」 明らかな異常。それに対してグラハムが出した結論は―― 「俺の中の隠されていた力が目覚めてしまったのか! 一度生死の境をさまよったことによって俺の中の生存本能が刺激されて、そして今お前との戦いで今俺の――」 兄貴分が兄貴分なら弟分も弟分ということなのかもしれない。 そんなグラハムの無駄話をカズマは禄に聞いていない。だが、一つだけ引っ掛かるところがあった。 (輝いて見えたり濁ったり見える、だと?) 普通ならばグラハムの戯言としか受け取らないだろう。なにせ日頃が日頃だし。もっともカズマはグラハムと初対面だからそこは関係ないが。 だが、グラハムの言っている現象、それは今まさにカズマにも起こっていることなのだ。グラハムの輝いている場所、濁っている場所が見えている。そして、それは初めてのことではない。 遊園地で相手にした3人にも、少し前に一方的に殺害した少女にも、同様のものが見えていたのだから。 今までは特に気にしていなかった。それこそ目の錯覚か、シェルブリットの新しい力か何かかとでも適当に考えていた。だが、敵であるグラハムにも見えているとなると話は別だ。一体、自分に何が起きているのか―― そんな時だった。 『御機嫌よう諸君。無事第2回目の放送を迎えられて嬉しいよ』 「!コイツはっ」 「ギラーミン……もう放送の時間か」 2人とも当然この声の主は知っている。ギラーミン。こんな場所に自分達を放り込んだ張本人だ。その声が聞こえる。つまり、今放送の時間を迎えた事になる。 『諸君もこの放送を聞けば生き残っている実感を得られるだろう?その感覚を忘れないでくれたまえ。 当たり前の話だが死んでしまえばもう何も感じることはできなくなる。』 その言葉にカズマは不快感を味わいながらも、浮かぶものがあった。 死んでしまえば――もし、自分が死んでしまったら―― 『カズくん!』 「うあああああああああああああああああああ!!」 「なっ!」 放送の声をバックにカズマが猛り、叫んだ。天高く、叫び、左肩の羽が消えていく。その様に、グラハムも放送を聞く耳を止め、剣とレンチを手に構えた。 放送を聞きながら、勝てる相手ではなさそうだ。 「撃滅のぉぉぉぉぉぉぉ!!」 カズマの右肩の車輪が回り、ヘリコプターのように宙に浮かび、グラハム目掛けて突っ込んでくる。 小細工などない。ただ、突っ込んで拳をぶつける、それだけの一撃。 もっともグラハムにそれを真正面から受ける義理はない。 足に力を込め、当たる寸前に避ける。やけに体が軽い今なら充分できる芸当。グラハムにはその確信があった。 力を入れた足から、突然力が抜けなければ。 「あ……?」 疑問を思う暇もない。 疑問を考える暇などない。 目の前には、カズマが急接近してきている。うなりを上げ、あたりの瓦礫を散らし、突っ込んでくる敵意の弾丸。 瓦礫の直撃によるダメージ。それをグラハムは――読み違えた。 それだけの、話。 「セカンドブリットォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 轟音と共に、グラハムの体がピンポンダマのように弾けとんだ。ガスッ、ゴスッ、という音ともに地面をバウンドし――露店のガラス窓に突っ込んだ。 ガシャァアン、というけたたましい音。それが、終焉を告げるドラの音だった。 ♪ ♪ ♪ 『―Same Time―』 【聖譚曲(オラトリオ) ~レッド~】 「そんなっ……ちく、しょう!」 空。ただ広がる青空。信じられない話だけど、俺はそこを飛んでいた。まあ、プテに掴まれて飛んだことはあったけどさ、自分の意志でこんな自在に動くのは初めてだ。 俺は早く劇場に着かなくちゃいけない。だから、できるだけ急いだ。放送までには間に合いたかった、けど、流石に距離が遠すぎたみたいでそれは無理だった。劇場に着く前に放送になってしまったんだ。 そして俺は、俺が間に合わなかった事を知った。 聞いてしまった。衛宮って人の名前を。名簿を見ても、そんな名前の人は他にいない。 「ごめん、ごめん……!」 まただ。また、手が届かない。 イエローにも、魅音さんにも、衛宮さんにも、手が届かない。伸ばしても、伸ばしているはずなのに、届かない。 俺は……無力、なのか? 「っ!! いや、まだだ! まだ……!」 チョッパーも、レナも、グラハムさんも、もちろんイスカンダルのおじさんも、ハクオロさんも、まだみんな生きている!まだ、まだ手が届くんだ! 「あきらめるもんか!」 このまま劇場へ向かおう。 もし俺たちみたいにレナたちにも何か起こっていたら、助けられるかもしれない。どの道、到着が遅れたんだから連絡しないといけないしさ。 5分くらいで目的の劇場が見えてきた。ガラス張りの入り口が見える。あそこにレナたちがいるはずだ! 「着いた!」 そして俺は建物からいくらか離れた道でX-Wiをゆっくり降ろしていく。それで着地して、すぐに駆け込んでレナたちを捜すつもりだった。衛宮さんが死んでしまった以上、イスカンダルのおじさんもこちらに向かってるはずだ。あの馬で、きっとハクオロさんと一緒に。だから、皆でおじさんを待つつもりだった。3人に何も起きてなければ、そうなるはずだった。 でも、俺は忘れてた。 それは、俺にも何もないこと、も条件だったんだって。 ゴウッ、という音がした。突然何かが俺の上を掠めたんだ。 その何かの起こした風で、まだ空中にいた俺の姿勢が僅かに崩れた。 一体、何だ、と俺がそれの行方を見ようとした瞬間―― 轟音と共に、爆発が起こった。それは、目の前の劇場から起こっていて―― 間もなく、爆風が俺を容赦なく地面に叩き落した。 「うああああっ!!」 金属音と一緒に、俺は地面に叩きつけられて転がった。転がった時に見えた破片、多分X-Wiが落ちた衝撃で壊れたんだ。少なくとも、羽は完全に折れてる。 俺はなんとか手を突いて立ち上がろうとする。 何が、起こったんだ? 突然、劇場が爆発して、凄い風と熱が襲ってきて、姿勢を完全に崩してしまったんだ。 その疑問の答えは、すぐにやってきたんだ。 大きな、大きな声と一緒に。 「ひゃっははははははは! どうだぁガキィ!! 安全地帯から地獄へ戻ってきた気分はよぉお!! おかえりなさい地上へ、ってなぁ!」 ♪ ♪ ♪ 『←Past―』 【小夜曲(セレナード) ~グラハム・スペクター~】 「っ……くっ」 少し、気を失っていたかもしれん。 気がつけば上に重いものが載っている。 ああ、物だ。人じゃあない。おそらく俺が突っ込んだ時に落ちてきた瓦礫だ。 なら、問題ない。 俺は派手に瓦礫を、持っていた剣で打ち砕いた。斬ったりなんかしない。俺にはやはり、斬るのはなんか性に合わない。 瓦礫が飛び散るのも待たず、俺は立ち上がり、店の外向けて走った。パチパチ、とガラスを踏むのも無視した。 アイツは、いない。 俺が死んだと思って命の恩人達を追って行ったのか。くそ! 奴の攻撃が決まる瞬間、俺は何とかコイツで奴の拳を受けた。だが、それでも勢いは殺しきれず店に吹っ飛んでしまった。それでも普通なら流石の俺もしんでいたかもしれないが……たしかこの剣は『使う奴の能力を1ランク上げる』とあった。1ランクというのはよくわからないが、もしその中に丈夫さとかが入っていたならおそらくそれも強化され、そのお陰で俺は助かったのだろう。これをくれた命の恩人Aにはもう、枕を向けては寝られない。……む?しかし足を向ける方が失礼じゃないか? いや、しかし― と、俺は我に返った。しまった!こんなことをしている場合じゃあない!奴を早く追って、命の恩人たちを救わねば! 俺はすぐに店から飛び出し、あのツンツン頭を追おうとした。 次の瞬間、俺の足から……完全に力が抜けた。 な、ま、また、か? なんでだ――そもそも、さっきだって――!? そこで俺はもう一つ思い出した。 剣の説明の、『使う奴の能力を1ランク上げる』。この前の文。 『使用者の体力を消費して』。 そう、か――俺は、戦っている間に――どんどん体力を、失っていたのか――なんて、こった―― 説明を忘れて、自爆だと――なんだんだ、俺は―― 地面が近づいてくる。ああ、俺はこんな所で倒れていられないってのに。 滅多にないことなんだぞ? 破壊しか能がない俺が、ラッドの兄貴とシャフトその他大勢やジャグジーたちくらいしか付き合う相手がいなかった俺が。 誰かに命を救われて、その恩を返せる機会が来るなんて―― 俺は、それすらできないのか―― く、そ―――― ♪ ♪ ♪ 『―Same Time―』 【狂想曲(カブリッチオ) ~四重奏・Ⅱ~】 「どうだいどうだい! 天使や悪魔じゃなさそうなのは少しばかり残念だが別にいい! いや、でもお前背中から出たあの羽何よ? なぁ、なんか武器で出でたのか? それ ともおまえ自身が出してたのか? なあ、どっちなんだよ? やってみせろよ、おらあ!!」 「ぐあああああ!!」 「ああ、できるわけねえか……俺が今踏みつけちまってるんだからなぁ、ヒャハハハハハハハ! こいつぁすまねえなぁ無理言ってよぉ!」 自分勝手にそう叫ぶ狂人ラッドはレッドの足を踏みつけながら言った。踏まれた足は無残に捻れ、歪な方向を向いている。折れているのは明らかだった。その箇所を、 踏み砕いた時そのままのラッドの足が容赦なく力を入れて苦痛を与える。 それは圧倒的な蹂躙だった。地に落ちたレッドを逃がさず、ラッドが与えた苦痛。それによりレッドを苦しみ、ラッドは嗤う。殺人鬼は、嗤う。 「ヒャッハハハハハハハ! …………ここまでして、諦めねえのかてめえは」 今まで高テンションだったラッドのテンションが一気に下がった。その原因は、レッドの眼だ。 苦痛に歪んでも、絶望を与えられても、レッドは諦めていない。その目から光が失われない。 だが、それよりもラッドが気になることは。 「なんでお前、俺を恨まねえ」 普通、足を折られ、ここまで罵倒されれば、敵意はおろか憎悪を抱かれるのが普通だ。だが、レッドは苦しみこそすれ、ラッドを見るその目に憎む色は見られない。 生粋のマゾ野郎なのか、とラッドが更に罵倒してやろうと口を開いた。 「確かに、痛いよ。それに、俺は死ぬわけには行かないから、だからラッドさんを全く憎んでないわけじゃない」 「ハッ。なるほどなあ。死なないと思ってるんじゃなくて、死ぬわけには行かない、ってか。そりゃあ俺の勘違いだったな。ま、それでもここまでやったんだ。今更やめるな んざ――」 そこでラッドの口が止まる。 おいまて、今こいつなんて言った。 「お前、なんで俺の名前を」 「だって……聞いたとおりなんだ。自分が死なない、って思ってる人を殺したいなんて――」 「グラハムさんが言ったとおりの人なんだ。だから、俺はグラハムさんが信じている人を……悪い人だって、どうしても思えない」 仲間である、グラハムへの信頼。そのグラハムが信じる、ラッドへの―― 「てめ……なんでグラハム坊やの事を」 その言葉にラッドは僅かに動揺した。自分の弟分であるグラハム、それを知る目の前の少年、しかも自分に対して信頼を向け続けるおかしな少年に。 そのわずかな隙を、『彼』は見逃さなかった。 銃声、そして刹那。 ラッドの胸に穴が開き、そこから血が噴出した。 時系列順で読む Back CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ Next CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ 投下順で読む Back CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ Next CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ Back Next CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ 前原圭一 CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ ギルガメッシュ CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ 竜宮レナ CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ トニー・トニー・チョッパー CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ グラハム・スペクター CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ カズマ CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ 古手梨花 CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ ニコラス・D・ウルフウッド CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ レッド ]CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~ CIRCLE RHYTHM ~追想のディスペア~ ラッド・ルッソ CIRCLE RHYTHM ~光の空のクオリア~
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一触即発 ◆SqzC8ZECfY 銃声を聞いて駆けつけた時にはすでに手遅れで、そこには物言わぬ一人の少年の死体があった。 頭を撃ちぬかれて絶命しており、手遅れなのは明らかだ。 その傍らに立って、それをじっと見下ろす男が一人。 「ひでえな……」 教室の窓から入り込む弱々しい月明かり。 男の頬には、その光を受けてきらりと輝くものがあった。 泣いていた。 男はこの少年と面識があるわけではなかった。 だが目の前で人が死んでいるという、ただそれだけで涙を流すには充分な理由だったのだ。 「理屈じゃない……人が死ぬのは、やっぱり御免だよ……」 次の瞬間。 どこかで銃声が聞こえた気がした。 男にとっては忌まわしい、だが今までの人生で数え切れないほどにその鼓膜が拾ってきた、聞きなれた音だ。 いかに遠くとも、小さくとも、それが銃声であるということは間違いなく確信できた。 「くそっ……」 躊躇うことなく走り出す。 銃声に恐れをなすことなど、この男にはありえない。 ただ、教室を出る際に少年の遺体を一瞥し、すまない、とだけ呟いた。 それは少年を守れなかったことか、ろくな弔いをする暇もなくなってしまったことを謝ったのか。 おそらくはその両方。 男は走る。 男はコートを纏っていた。それが夜の風になびく。 その色は『黒』。 そしてその髪の色も揃えたように『黒』。 夜の闇に溶け込むように。 だがその右腕の先には、そこだけが暗闇に染まらず、僅かに輝く細い光――――。 ☆ ☆ ☆ 森の中。 私は木の陰に隠れ、少年が近づくのを待ち構えていた。 だが彼は私からやや距離が離れたところで立ち止まり、そして言った。 「……あのー、誰かいるんでしょうか?」 静かな森に不安げな少年の声が吸い込まれていく。 ふむ、気づいたか? なかなかカンがいいようだ。見所があるかもしれない。 私は少し感心しつつ、彼に姿を見せてやろうとした瞬間――。 「は……はろろ~ん、です」 私とはまったくの別方向の木陰から少女が姿を現した。 ロングヘアーと短めのスカート。 闇夜のせいで薄暗くてよく見えないが、デイパックを持っているということは、私たちと同じ境遇か。 「お……女の子?」 「はい。あ、ほら、武器とか持ってませんよ? だから殺し合いとか野蛮なことは勘弁でー……ね?」 「も、もちろんですよ、僕だってそんな……」 少女は左手にデイパック、開いた右手には何も持っていない。 無害なことをアピールするかのように、少年に向かって手をぱたぱたと振った。 少年は相手が年頃の少女であること、そして戦う意思がないと言われたことで若干安心したようだ。 だが甘い。小さなナイフや拳銃を隠し持っているということも考えられるし、あのデイパックは理屈抜きで何でも入る不思議アイテムだ。 私に支給された道具は普通ならこんなものには入らない大きさだが、現在すんなりと私自身の持つデイパックに収納されている。 彼女がいきなり次の瞬間に、自身の荷物からとんでもない武器をずるりと取り出したとしても私は驚かない。 「――――皆さまにお聞きしたいことがございます」 少年と少女はびくりと身を震わせる。 なんと少年とも少女とも違う女の声が新たに聞こえてきた。 いきなりこんな多数の人間に遭遇することになるとは……。 新たに声を発した女は姿を見せない。 女は私と同じように森の木陰に身を隠しているのだろう。 「誰だ!?」 「貴方達と同様に、ギラーミンという男に首輪を嵌められてからここに放り込まれたものです。 姿を見せられぬご無礼はお察しください。貴方達がいきなり襲ってくるとも限りませんので」 「そ、それはこっちの台詞だッ!」 女の声に少年が反論する。 どちらももっともな言い分ではある。 「……さようですか」 なんと女はあっさりと姿を見せた。 といってもその半身を木の陰に隠したまま、そこから近寄ろうとしない。 いつ攻撃されても即座に身を隠せるポジションだ。 三つ編み眼鏡にあれは……いわゆるメイド服だろうか。 なんともこの場にそぐわない。 「これでよろしいですか?」 「あ、はあ……」 女の服装に気を取られたか、素直に姿を見せたのが予想外だったのか、少年はなんとも間の抜けた声を出した。 だが女はそれを気にも留めず冷静な声で、そして私にとっては全く意表をついた言葉を紡ぐ。 「……そしてそこで身を隠しておられる方も、私の質問に答えて頂きたいのですが」 「……!!」 女の視線は私の隠れている方向に、はっきりと固定されていた。 少年と少女もその視線を追ってこちらを見つめる。 気づかれていた。 あの女、只者ではない。 仕方ない。 「すまない。盗み聞きも、いきなり襲い掛かるような真似もする気はなかった。 だが質問に答えるだけならこのままでも構わんだろう。いいかね?」 「はい、結構です」 今まで隠れていた私を糾弾することもなくあっさりと承諾。 だが女の声は底冷えがするほどに、どこまでも揺らがない氷の冷たさを感じさせた。 さらにその奥には何とも言えぬ危うさのようなものも。 その迫力ゆえか、少年も少女も口を挟まない。 「皆様はここに放り込まれてから、我々のほかに誰かと接触なさいましたか?」 「いや、遭遇したのも、発見したのも君たちがはじめてだ」 少年と少女の答えも私と同様。 「では、あのギラーミンという男についての情報は?」 「わからん。あののびたという少年や、青い達磨のような生き物は面識があるようだったが……」 「そうですか」 残りの二人も首を振った。 我々は結局、だれも有益な情報を持っていなかった。 しかし、与えられたものや、目に見えるものだけに気をとられるようでは、誇り高きロケット団のボスは務まらない。 「だが、この殺し合いについて私なりに考えたことがある」 「……」 沈黙。 三人は、私の次の言葉を待っている。 私たちの位置関係は林道に少年。その少年から見て左脇の森に私。逆側の森の木に体半分を隠して、少女がこちらを見ている。 そしてメイドは少年の正面、私から見て左。道沿いの木のたもと。 「ギラーミンは『この殺し合いに勝ち残って、自分を殺せば望みは叶う』と言った。おかしいと思わんか?」 「――――あ」 少年の声。 察したか。 そう、目の前で殺人が起こったという異常事態に気をとられたものが多数だったせいか、私を含め誰もギラーミンにこのことを聞かなかった。 私の失態でもあるが、だがこれはよくよく考えれば、誰もが当たり前に思い至るはずだ。 「――ギラーミンが死んだら、誰が望みを叶えてくれるのだ?」 「それ……は」 森は静かだ。 私たち四人の声、挙動の他は何も存在しないかのような静寂に包まれている。 だから私の正面に位置する少女の発する、か細い、そして一瞬だけ息の詰まるような声もよく聞こえた。 「それに勝ち残ったものと奴が決闘というのも信用ならん。正々堂々? そんなわけがない。 ならば最初から自分が我々と同じ殺し合いの舞台に立てというのだ。 勝ち残った者の首輪を爆破して終わり。このほうがよほど可能性が高い。 つまりこのデスゲームは最初から、何から何まで茶番だ。殺しあう意味など――何もない」 私が最後の言葉を発した瞬間、少女が震えた。 ――殺しあう意味など何も無い。 まるでその言葉に怯えたかのように俯いている。 もしや……私の推測が正しければ、この少女は――。 「……どうしました、セニョリータ」 「え……あっ……」 メイドが冷たい声で、少女の不審な態度を指摘する。 ほんのわずか。薄暗い空間の中で、よく注意しなければ見逃してしまいそうな仕草を。 それを指摘されて、ロングヘアーの少女はメイドの顔をまともに見ない。いや、見れないのか。 「我々はこの遭遇以前に誰にも会ってはいない。皆、そう言ったはずですよ」 「あ……いえ、私は」 「ならば何故そう怯えるのですか? 大丈夫ですよ、落ち着いてください。 貴女が『嘘をついて』いて、『もう誰かを殺してしまった』のでなければ」 「――――――――!!」 少女は大きく目を見開いてメイドを見つめていた。 わずかな月明かりに照らされたその顔は、普段であれば可愛らしい整ったものだろう。 しかし今の表情は恐怖に歪み、ぶるぶると全身を震わせているのが暗い視界の中でも分かるほど。 その態度が、メイドの言葉が真実であると告げていた。 そう。殺し合いに意味が無いと聞いて、安心するとまではいかずとも、気が抜けるくらいが普通の反応だ。 自分たちは殺しあうしかないと言われて、どんな人間も少しくらい緊張はするだろうから。 挙動不審になるのは、うしろめたい人間ぐらいだ。 この殺し合いに関することでうしろめたいといえば、大体は予測が付く。 まず思い浮かぶのはメイドの言葉通りのケース。 そしてそれはこの少女にとっては図星だったようだ。 命惜しさか、それとも他人を殺してでも果たしたい願いがあったのか。 そのために良心を押し殺して凶行に走る。だがそれは無駄だと言われたなら、そのような反応も無理からぬことだ。 「や、やだなー、何言ってるん――」 明るい声を出そうとして、少女の言葉は途中で途切れた。 メイドは少女に向かって、悠然と歩き出した。 その手には拳銃らしきものが握られている。 「う、あああああああああああああっ!」 撃たれる――即座にそう思ったのだろう。 少女はどこかに隠し持っていた拳銃をメイドに向けた。 ぱん、と乾いた発砲音。 私はメイドが撃たれたと、そう思い、心の中で舌打ちした。 早まった真似をするな。 少女にもメイドにもそう言いたい気分だった。 だが、その一瞬後――――その思いは驚愕という感情に取って代わられた。 「ぐぁっ……!」 少女のものと思われるくぐもった悲鳴。 続いて何かがどすんと地面に落ちるような音。 私は発砲音を着た瞬間、メイドが撃たれて倒れる未来を予想していた。 が、目の前にはそのメイドが発砲した少女の間接を極めて、組み伏せる姿があった。 メイドは弾丸をかわして、少女に近づき、あっという間に間接を極めて押さえ込んだ――と、理解するのに、目の前の光景を見ても数瞬の時間が必要だった。 恐るべき戦闘能力だ。 メイドは少女の腕を捻ってその手の銃を取り上げる。 そしてのしかかった体制のまま、それを少女の頭に向けた。 「ひっ……!」 「やめろッ!!」 今まで見ているだけだった少年が叫んだのは、その時だった。 いつのまにか機械とも生物ともつかぬ人形のようなものが出現し、少年の傍に浮かんでいたのだ。 なんらかのポケモンだろうか? 少年の目には輝きが宿り、強い意志が見て取れる。 なるほど。ギラーミンがいったとおりだ。 ここに集められた者たちは誰もが一筋縄ではいかない猛者ぞろいらしい。 「やめて下さい! この殺し合いには意味がないって、わかったじゃないですか!」 「……そうですね。そこのお方の仮説が正しければ、そうなのでしょう」 「だったら!」 「ですが……ある可能性を考えれば、そうとも言い切れません」 ある可能性? それは一体、何だというのか。 「あのギラーミンの背後に黒幕がいる……それならば、どうなりますか」 ――なるほど。 奴は傀儡に過ぎず、その後ろにいる者が、この殺し合いイベントの本当の主催者ということか。 メイドは続けて言葉を紡ぐ。 「私は絶対に生きて帰り、果たさねばならぬ目的があります。そのためならば殺人も躊躇わない」 「くっ……!」 冷たい目。 あの目を見る限り、メイドの言葉は真実と思える。 そう思わせる迫力がある。 手に持つ銃の引き金を、彼女はその気になれば、おそらく本当に引いてみせるだろう。 そうなれば……一つの死が、間違いなく確実に訪れることになる。 ここにいる者全てに空気が重くまとわりつく。 心臓の鼓動すらうるさく感じるほどの静寂が、緊張感を増加させる。 沈黙。 さらに沈黙。 さらに――――だが、それを破ったのはメイドがようやく紡いだ次の言葉。 「ですが……このセニョリータが誰かを殺害した、というのであれば、あと24時間は誰かを殺す必要はない、ということですね」 「え……!?」 少年の驚きの声。 メイドがゆっくりと少女に突きつけた銃の狙いを外す。 「現段階では殺し合いに乗るという選択肢には不確定要素が多すぎる。ここは一旦――――」 その時だった。 がさ、がさ、がさり。 木の枝を掻き分ける音。 近づいてくる。 この場の全員が音の発生源の方向に視線を集める。 新たな乱入者か。 ――もしこちらを襲うつもりの者ならば。 途切れかけた緊張感が再び、冷たい汗を伴って私の体を支配する。 私の支給品である武器、投擲剣・黒鍵をいつでも取り出せるよう準備。 がさ、がさ、がさり。 ――来る! 「殺し合いなんて馬鹿な真似はやめるんだッ!! ラァヴ、アンド、ピィィィィィスだッ!!」 姿を見せたのは黒いコートの……………………馬鹿? 【B-2 森 1日目 深夜】 【ロベルタ@BLACK LAGOON】 [状態] 健康 。メイド服。詩音を組み伏せています。 [装備] グロック26(弾、8/10発)@現実世界 コルト・ローマン(5/6)@トライガン・マキシマム [道具] 支給品一式 コルト・ローマンの予備弾42 確認済支給品0~2(武器の可能性は低い) [思考・状況] 1 とりあえず殺し合いに乗るかは保留。 2 必ず生きて帰り、復讐を果たす。 【備考】 原作6巻終了後より参加 【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】 【装備】:なし 【所持品】:基本支給品二式、不明支給品0~2個(確認済み) 【状態】:健康 。組み伏せられて身動きが取れない。 【思考・行動】 1、どうする……? 【備考】 本編終了後からの参加 【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康 [装備]:??? [道具]:支給品一式(確認していない) [思考・状況] 基本:皆を守ってギラーミンを打倒する! 1:だれだろう……? 2:同じ意志を持つ仲間を探したい 3: ギラーミンと話していた少年に会う ※備考 第四部終了した時間軸から参戦。 名簿というか、ディパッグの中を確認してません。 (支給品は次の書き手さんに任せます)。 スタンドパワーの消費が激しいことに気付いてません。 【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]:健康 [装備]:投擲剣・黒鍵 10/10@Fate/zero [道具]:支給品一式、包帯(少量)、薬(胃薬) [思考・状況] 基本:ゲームを潰してギラーミンを消す 1:誰だ……? ※備考 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。 【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】 [状態]:疲労、黒髪化 [装備]:??? [道具]:支給品一式、不明支給品1~3 [思考・状況] 基本:殺し合いを止める 1:ラァヴ、アンド、ピィィィィィスだッ!! ※備考 原作13巻終了後から参加 時系列順で読む Back 我が﨟たし悪の華 Next 同盟 投下順で読む Back 正しい選択は Next 遥かに仰ぎ、麗しの グラハム・スペクターは銃弾に倒れ、ロベルタは殺戮の幕を開ける ロベルタ 奈落の花 幻想殺し殺し 園崎詩音 奈落の花 黄金の精神/誇り高き悪の牙 広瀬康一 奈落の花 黄金の精神/誇り高き悪の牙 サカキ 奈落の花 GAME START ヴァッシュ・ザ・スタンピード 奈落の花
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伏せられた手札◆SqzC8ZECfY 「ところで君は……何故あの声のほうに向かわなかったのだね」 「……んー」 「大体は予測がつくが……その怪我と全員に支給されるはずのデイパックを持っていない点から考えるに、誰かに襲われ奪われたといったところか」 「やー、実はそーなんすよダンディなオジサマ。襲ってきた奴ってのがこれがまたすっげーおっかない奴でこの土御門さんもすっかり……」 「ふ……まあ、そんなことがあれば、あれが罠かもしれないと考えるのは無理もないだろうな。 だが……それを抜きにして、あの宣言の内容についてはどう思うか聞きたいね。 『人を殺すな』……どうだね。賛同するかい?」 「おおっ!? これはもしや試されている!? 迂闊に『はい』と答えたら『じゃあ殺しても文句ないな』でクビチョンパですか!? いやーそりゃあ人殺しはよくないっすよ、うんうん」 「……ふむ、まああの声の彼は罠など考えていまいよ。誰かが殺されてかけている状況で損得抜きに駆けつけるようなお人よしだ」 「およ? 知り合いっすか?」 「少し前に出会ってね……君も誰かの保護を受けたいなら彼のところへ行くといい。腕も確かだ。 一人でいるよりは安全だろうな。だが……」 「だが?」 「殺さないだけで問題が解決するか。答えはNOだ。ここから脱出できるわけでもなく、殺し合いが止められるわけでもない。 彼と共に自らの安全のみを手に入れても、ここから逃げられない限りはいつか殺しあわねばならない。 禁止エリアが狭まっていけば逃げ場を失い、やがて首輪が爆発するしかないからな」 「それが嫌なら殺し合えってことですかい?」 「そうだ。だから君が本当に生き残りたいのなら、最終的には彼を殺すしかない。私の見立てでは不意打ちでも相当に難しいと思うがね。 それほどまでに彼は強いと私は判断する。だからこそ始末が悪い」 「だがそれはアンタの話が本当ならって前提つきだと思うがにゃー?」 「それはその逆もまた然りだよ。あのヴァッシュ君の話を信じるかどうかというね。土御門君、だったかな?」 「ああ、その通り。土御門元春。アンタは?」 「サカキだ。ゆえに私は提案する。本当の意味で殺し合いを打破したいなら私と組めと。 そう、たとえ……ヴァッシュ君のいう『殺すな』というタブーを踏み越えることがあってもだ。 殺人を踏み越えてでも殺し合いを打破できるなら、それは僅かな犠牲を生むことになっても結果的に正しいのではないかね?」 「信用できるかどうかという根拠は?」 「そんなものは何処にも誰にもありはしない。ギラーミンが殺し合いに勝った者を生かしておくのかという点も含めてね。 ゆえに私は殺し合いに乗る価値を見出せなかった。だからこそ『打破』という選択肢を選んだのだ。君はどうするのだ?」 「……自分で選べってか」 「そうだ。一つ言っておくとするなら、怪我人で荷物もない君に対してわざわざこのような提案をしている点を考慮して欲しいがな。 そしてその怪我で、君はまさしく殺し合いの現実を身をもって知っている。私が注目したのはそこだ。君はその上でどういった判断を下すのかな」 「……」 ◇ ◇ ◇ 「ちょっとぉ、中心部に行くんじゃなかったの?」 「何のために中心部に行くのか? それは情報を集めるため、つまり他の人間と会うのに都合がいいからだ。 だが、学校も山のてっぺんに位置し、目印にもなりやすい。そしてここから近い。この際だ、寄っておくのも悪くないだろう」 「誰かがいるかもってこと?」 「ああ……そしてすでに複数の人間があつまっていれば得られる情報も増える。 さらに互いが殺しあっていた場合、誰かが殺されていれば首輪も労せずして手に入る」 「ま、別にいいけどぉ。二番目の放送でも大勢死んでれば色々と楽が出来るしねぇ」 「……」 「それと、あのお城の中の○なんだけどぉ……首輪が三つ必要ってことは三人殺す必要があるってことよねえ?」 「ああ、そうだ。首輪を集めるには首を切り落とさなければならない……死体から回収する手もあるが。それがどうした水銀燈?」 「あれはそんな三人殺すような、殺し合いに積極的な人間に対してのご褒美が用意されてるんじゃないかしらねぇ。だとすると……」 「ふむ……なんらかの強力な支給品というのがまず考えられるな」 「そうそう、それでバンバン殺してくださいって言ってるみたいに思えるわぁ」 「ふむ……」 「だからぁ、もうそろそろ積極的に行ってもいいと思うのよねぇ。いい加減、アンタの言うとおりじゃ稼げないわよぉ」 「我々の目標は生き残ることが前提であって、殺し合いで多く星を挙げることではない。前にも言ったはずだぞ」 「でもお城が禁止エリアになったりしたらどうするのよぉ? それを考えたら勿体無いじゃない。のんびりはしてられないわぁ」 「それは……ないだろう。少なくとも今度の放送、そしてもうしばらくは。ここまで大掛かりな仕掛けをわざわざ自分で潰すようなことはすまい」 「むぅ……」 「我々の同盟はほぼ形だけのものだが、それを繋いでいるのは互いの利益だ。今現在、君の利益を損なうようなことは私はしていないつもりだよ」 「……」 「さて……着いたぞ。学校だ。保健室をまず探そう。薬や包帯があればもらっておきたいからな。同じ目的で誰かがすでに来ているかもしれない」 ◇ ◇ ◇ 土御門とサカキは学校内にある教室のうちの一室にいた。 ちなみに上条当麻が園崎詩音に撃たれたのとは別の教室である。 日が差し込む教室に並ぶ机に思い思いの格好で座り、対話を進めていた。 サカキの問い――脱出と殺し合いの打破について。 土御門はそれに対して、その具体的な方法をまだ聞かされていないという当然の疑問を口にした。 「で、具体的にどうするつもりなのかにゃー? まさかここまで言って無策ですってのはお話にならんですよ?」 「ふむ、当然だな。ではそれを説明するために踏まえておきたい点がある。前回の放送で死者の名前が呼ばれたな?」 「……ああ」 一方通行。 そして……上条当麻。 彼らは死んだ。 あまりにもあっけなく現実味に乏しいほどだが、人が死ぬときなど得てしてそんなものだ。 土御門の脳裏に彼らの存在が蘇るが、だがそれは幻想だ。 彼らはもういない。あるのはかつて彼らだったモノだけだ。 ゆえにその幻想を振り払い、現実を踏破し、前へと進む。 そのために彼らの存在を思考から取り払う。 「それで?」 「うむ、そこで問題になるのは何故ギラーミンが死者を把握しているのかということだ」 「そりゃ……俺たちを監視してるからに決まってるですよ。まー問題はその方法ってとこですかい?」 「そう……効率的に考えるならば、監視カメラの類よりは私たちに発信機を取り付ける方法が妥当だろうな。これについて異論はあるか?」 この会場には無数の建築物が設置されている。 ゆえに高性能の衛星カメラでも屋内に潜り込んだ人間を監視するのは難しいだろう。 屋内にカメラを仕掛けるにしても、全ての建物に死角のないよう設置すればその数は膨大になる。 たしかにサカキの言うとおりに発信機を取り付ける方法が効率的だ。 「異論はねーっすよ。とりあえずアンタの説を採用するならどこに発信機が仕掛けられてるって話になるけどにゃー。 つかぶっちゃけ監視されてるってんなら、この会話も盗聴されてるんじゃねーすか?」 「ああ、そうである可能性は大きい。だが今のところ首輪を爆破されたりはしていない。 脱出など無理だと思われているのだろうな。私としてはありがたいがね」 「ほほー。で、なにやらすごい自信ですが肝心の具体策がまだですぜい?」 「そうだな。だが君の返事もまだ聞いていない」 今まで窓の外を眺めながら話していたが、そこでサカキは改めて椅子ごと身体を動かして土御門に向き直る。 ギロリと真正面から鋭い眼光をぶつけてきた。 おっかねーな、と内心で思いながらも表情は崩さない。 「君が私と会うまで、どういったスタンスで動いていたかは問わん。どうでもいいことだしな。 だがこのゲームで最後の一人を目指すというならやめておけ。ギラーミンが最後の一人になった者を生かす理由がどこにある?」 「生かす理由、ねえ……それを言うならこんなクソッタレサバイバルゲームを、俺らを巻き込んでやる理由自体がわかんねーっすよ。 分かってるのは俺たちが為す術もなく拉致られて爆弾取り付けられて監視されて殺し合いを強要されてるって事実だけですたい」 そうだ。 ギラーミンの言うことが本当だったとしたら突っ込みどころはいくつもある。 自分を倒せば願いは叶うとはいうが、ならば誰がその願いを叶えてくれるのか。そして誰がここから元の場所へ返してくれるのか。 さらに言えばこの名簿を見ても、ギラーミンが世界に名だたる猛者という割には土御門が知らぬ名ばかりだ。 一方通行と、超電磁砲こと御坂美琴についてはともかく、他は自分を含めてそこまで有名なのだろうか? だが、それでも、この首輪に命を握られ、このフィールドに閉じ込められ、そして監視されていることには変わりない。 「では殺し合いを続け、最後まで生き残ることを目指すと?」 「正直、この怪我じゃあキツイがにゃー。だが何の策も提示しない奴の根拠無い提案に乗っかるのもどうかと思うぜい。 ……ここでアンタを殺して荷物を奪うって選択肢もあるし、な」 その言葉とともに教室の空気が緊に張り詰める。 土御門は机をどけて椅子に両足を投げ出した格好だ。 対するサカキは正面、机に両肘をついてこちらを睨んだまま椅子に腰を下ろしている。 サカキは動かない。 土御門は投げ出した足を片方だけ引いた。 軽く踵を浮かした状態で、膝は正面に向ける体勢だ。 その脚で床を蹴ればすぐにも飛びかかれるということ。 空気が更に張り詰める。 互いが目をそらさず相手を見据えている。 「………………と、まあ悪ふざけはここまでにしておきますかにゃー」 土御門はそこでへらりとした笑みを浮かべ、全身を弛緩させた。 正面に向けた膝も同様に力を抜いてまた床へ投げ出す。 が、その刹那――、 「――ッッ」 土御門の全身のバネが跳躍運動のために駆動した。 爆発的な勢いでサカキが肘をついた机へと前蹴りを叩き込んだのだ。 重く鈍く、だが耳をつく強烈な金属音が生まれ、それはアルミ製の机がひしゃげるほどの威力を意味する。 椅子と机に挟まれ、サカキは身動きが取れなくなる。そのスキに決定的な一打を叩き込む――はずだった。 「な……!?」 土御門のそれは驚愕の表情だ。 サカキの腹部へと机を叩き込むべく全身の体重をかけて放った蹴りは、強烈な抵抗によってその威力を真っ向から受け止められていた。 抵抗の正体はサカキの腕力。 とっさに反応し、机を腕で押し返すようにして攻撃をブロックした。 サカキの顔に笑み。 「一旦、外して油断させてから奇襲か……オーソドックス過ぎてつまらん喧嘩のやり口だな」 「意外とやるですなぁ……こりゃ甘く見てたかにゃー?」 「ふ……わかったら座りたまえ。お待ちかねの策を提示してやろう」 見た目どおりの食えない男だ。 そう土御門は判断する。 だがここまでしてもあちらはまだ手を組もうとしているらしい。 余裕なのか、それともよほどこちらを買ってくれているのか。 前者であれ後者であれ、それは付け入る隙となるだろう。その理由を聞かないことには油断はできないが。 こちらが奇襲をかけたように、今度はあちらが油断した隙を突いて殺しにかかってくるかもしれないのだ。 とりあえずサカキのいうことを聞いて椅子へと座りなおす。 「んじゃ聞かせてくれ。その策って奴をよ。ついでに言えばなんで俺なんぞとそんなに組みたいのかも説明プリーズだにゃー。 念のためにいっとくとあっちの趣味はないから、そーゆーのは土御門さんお断りだぜい?」 「ふむ、では言ってやろう。策は…………ない。現時点ではな」 「……………………はい?」 ないといった。 この耳がイカレてなければ、確かにそういった。 説明するといっておきながら、ないといった。 ならばこの男は馬鹿なのか。 むしろあれか。カミやんか。無茶無策無謀の三拍子背負った超特大級の大馬鹿か。 「だからこそ……情報が必要なのだ」 「……お?」 危うくこの人物を超ド天然級命知らずお人よしの大馬鹿クラスと認定しそうになったが、どうやらまだ断定すべきときではないらしい。 サカキは淡々と言葉を続ける。 「これは君にとっては損のない話だ。そちらにまず必要なのは水と食料。そして襲撃者などの危険があった場合にその怪我を補う要素、つまり同行者の存在だ」 「その同行者に後ろからバッサリって可能性もあるのでは?」 「奪うための荷物もないのにかね? 現時点で君を殺す必要性は私には全くないのだ。ゆえに安心して欲しいと言っている。 欲しいのは情報だ。こればかりは死んでいては奪えないからな」 「じゃあ、その情報が手に入れば用なしズガン! ……とか」 そうであればわざわざ手持ちのカードを晒す馬鹿はいない。 土御門は言外にそういった意味を込めたということなのだ。 だがサカキはそれを聞いて、一笑に付すという言葉がぴったりの笑みを浮かべた。 「君はこの名簿に誰か知り合いはいるか?」 「ああ……三人いる」 嘘は言っていない。 そのうち二人がすでに死亡していたとしても。 「ならばその三人と接触する際には君が生きていたほうが情報を引き出せるだろう? それにしても具体的に誰とは言わないあたりは流石に用心深いな、くくく……」 つまりサカキは生きている土御門に用があるということだ。 土御門を殺す価値というものが、このサバイバルゲームにおいては現段階で際めて低いということもあるのだろうが。 サカキは言葉を続ける。 「この地図に記されているフィールドも実際に見てみなければ何があるのか完全に把握できるわけではない。 この名簿では私の顔見知りも何人か載っているが、彼らは確かにギラーミンのいう世に名を轟かせる『猛者』だ。 だが……それ以外の殆どは聞いたことがない名ばかりで、それは君もそうといえる。土御門、君はどこのポケモンマスターなのだ?」 「へ?……ポケモンってなんすか、ソレ」 マスターというからには何らかの称号だろうか。 しかしポケモンとは何ぞや? という、聞いたことのない単語に対して当然の疑問を返すが、それはサカキにとってかなりの予想外だったようだ。 先ほどの奇襲にも動じなかったその顔に驚愕の色が浮かび上がる。 「ポケモンを知らないだと? 馬鹿な、いったい何処に住んでいた!?」 「えー……なんかすっげー田舎者みたいに思われてませんかにゃー? 学園都市のど真ん中ですよ? 世界で一番有名といっても過言じゃない能力開発のメッカ!」 「知らん、いったいなんだそれは?」 「はいぃ?」 いったいこれはどういうことなのか。 学園都市は世界で唯一無二といってもいい特殊性と巨大さを併せ持つ、それゆえに誰もが認知する世界トップクラスの有名都市だ。 サカキのきちんとした身なりを見る限り、山奥から出たこともない仙人というわけでもないだろう。 だのに学園都市を知らない。ポケモンという理解不能な単語を知ってて当然というように語る。 何か決定的な食い違いがある。 それは一体なんだ、と土御門が考えようとした矢先に声が響いた。 「――それは君達がそれぞれ違う世界からやってきたということだよ」 その声は土御門でもサカキのものでもない。 教室の出口から聞こえてきたそれに振り向くと、そこにはいつの間にか仮面にマントというこれ以上ないくらいに怪しさ爆発の男が立っていた。 「な……」 サカキも言葉が出ない。 当たり前だ。 こんな変質者が突然現れれば無理はない。 だが仮面の男はこちらの驚きをどう受け止めたのか、軽く頷いて言葉を続ける。 「驚かせてしまってすまない。だが悪いとは思うが話は途中から聞かせてもらった……情報が必要ならば、この私が提供しよう」 「……はじめまして、私はローゼンメイデンが第一ドール。水銀燈よぉ。よろしくねぇ。そしてこの怪しい仮面はゼロっていうの」 今度はゼロとかいう仮面男の影から黒い翼の生えた西洋人形が現れた。 しかもその人形はその翼で浮いていた。 おまけに言葉も喋る。その声は本当に生きているかのような美しい少女のそれ。 その翼と同じ色の黒いゴスロリ衣装が、その長く真っ白な髪を引き立たせていた。 「な、なんとー! 近頃の萌え業界における技術発展は凄まじいと聞いてはいたが、まさかこんな高性能フィギュアまで開発されていたとはー!? あれですか? カスタムメイドですか? あなたのお好みに合わせて改造可能ですか!? ひょっとしてダッチ――ぎゃあっ!?」 その言葉を遮って黒い羽根が飛翔する。 風を切り裂き、土御門の脳天をかすめ、それはカツンと音を立てて教室の壁に突き刺さった。 水銀燈という人形の翼から放たれたものだった。 思わず土御門が椅子から腰を浮かせる。 「……言葉の意味は良くわからないけど何となく腹が立ったわぁ」 「落ち着け、水銀燈……言っておくが彼女は機械の類ではないらしい。ローゼンメイデンという名の生きた人形だ。 抽象的な物言いかもしれんが、そうとしかいえないのだから仕方がない」 仮面の男――ゼロが説明する。 サカキがここで口を開いた。 「非常識だな……だが、違う世界から来たということは自分の世界の常識が通じないと……そういうことなのか?」 「そういうことだ。話が早くて助かるよ。さて、つまりギラーミンは時空を超える……まさに非常識な力を以って我々をここに呼び寄せたということだ。 どうする。殺し合いを打破するとはその力の持ち主を敵に回すということだぞ。わかっているのか?」 「…………」 サカキの沈黙。 ゼロ、水銀燈も彼の挙動を見守る。 土御門もその例に漏れない。 やがてその口から教室の重い空気を打ち破る声が生まれた。 「……ただ命が惜しいだけならどこかに隠れて引きこもっているだろうさ。絶望するのは手を尽くしてからでいい。 とどのつまりが性分でね。このまま奴に屈するのは我慢がならないというだけの話だ」 「ではまだ諦めるつもりはない、と?」 「ああ。さて、情報をありがとう。君はそれと引き換えに何を得るつもりだ? ボランティアというような輩には見えないが」 「もちろんだ。こちらも君たちが得た情報を提供してもらう。それぞれの目的のために。生き残るために。互いのカードをな」 ゼロが椅子を一つ掴み、引き寄せてから脚を組んでどっかりと腰を下ろした。 水銀燈という人形も、ゼロと少し離れた位置にある机の上に膝を折って座りこむ。 サカキは変わらず机に肘をつき、座ったまま動かない。 立っているのは土御門だけだ。 「……」 じっとりと嫌な汗が浮かぶのを止められない。 教室の空気が重苦しくなっているのを嫌が応にも感じ取れる。 人間、非情になれる奴はなれるが、なれない奴はどうやってもなれないものだ。 そしてこの連中は非情になれる連中だ。同類である自分には直感的に分かる。 現段階で怪我を負い、支給品を持たない自分はいつ切り捨てられてもおかしくはない。 サカキはともかく、ゼロと水銀燈に関してはその目的すら不明瞭なのだから。 間違っても油断は出来ない。 この交渉は気安くできるものではない。 誇張ではなく命がけになっても不思議ではない。 「どうした?」 サカキの声。 探り合い、化かし合い、騙し合い――――上等。 胆をくくる。 最後の一人、土御門元春が席へと着いた。 「――――では、始めようか」 【B-2 学校内の教室(上条が撃たれた教室とは別)/一日目 昼】 【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】 【状態】:健康 【装備】:大戦槍@ワンピース 【道具】:基本支給品一式、MH5×4@ワンピース、治療器具一式 【思考・状況】 1:ナナリーの捜索。そのために情報を集める。 2:ナナリーの害になる可能性のある者は目の届く範囲に置く、無理なら殺す。 3:中心部を目指す。 4:『○』に関しては…… 5:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。 6:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。 7:『○』対する検証を行うためにも、首輪のサンプルを手に入れる。 【備考】 ※都合が悪くなれば水銀燈は殺すつもりです。(だがなるべく戦力として使用したい) ※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。 ※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石、蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。 ※ナナリーの存在は水銀燈に言っていません ※会場がループしていると確認。半ば確信しています ※古城内にあった『○』型のくぼみには首輪が当てはまると予想しています。 ※ヴァッシュの声を一通り聞きました 【水銀燈@ローゼンメイデン】 【状態】:健康、服に若干の乱れ 【装備】:卵型爆弾@バッカーノ、強力うちわ「風神」@ドラえもん、 【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~1 【思考・状況】 1:優勝を狙う。 2:しばらくはゼロと組んで行動する。 3:『○』についてはどうしようかしら……。 4:守るべき者って……バカバカしい。 【備考】 ※ナナリーの存在は知りません ※会場がループしていると確認。半ば確信しています ※古城内の大広間に『○』型のくぼみがあります。このくぼみに何が当てはまるかは不明です。 ※ヴァッシュの声を一通り聞きました 【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]:健康 [装備]:投擲剣・黒鍵 5/10@Fate/zero、防刃ベスト@現実 [道具]:支給品一式×3、電伝虫@ONE PIECE×2、破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero 忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、和道一文字@ONE PIECE、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの、謎の鍵 [思考・状況] 基本:ゲームを潰してギラーミンを消す 1:同士を集め、ギラーミンへの対抗勢力を結成する(新生ロケット団) 2:土御門、ゼロ、水銀燈からなるべく多くの情報を集める。 3:ヴァッシュとの合流。 [備考] 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。 ※康一、ヴァッシュの名前はまだ知りません。 ※詩音を『園崎魅音』として認識しています。 ※ギラーミンの上に黒幕が居ると推測しています。 ※表記されている道具のほかに、通常のベストが一着、デイパックに入っています。 ※防刃ベストは通常のベストに偽装したもので、銃弾等を防ぐほどの性能はありません。 ※B-2・森にベナウィの死体、広瀬康一の死体が放置されています。荷物は空のデイパックのみです。 ※ヴァッシュの声を一通り聞きました 【土御門元春@とある魔術の禁書目録】 [状態]:左の肩付近に軽傷。肋骨1本骨折。失血で衰弱。超能力により自動回復中(微弱) [装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 基本:どんな手を使ってでも学園都市に帰る 1:殺し合いに生き残る 2:あくまでも証拠は残さずに、目立つ行動は取らずに行動。 3:駆け引きを駆使してなるべく自分に有利な状況を作り上げる。 [備考]: ※ウソップの本名を把握していません。 ※地図や名簿は大まかに把握しています。 ※会場がループしていることに気付いていません。 ※ヴァッシュの声を一通り聞きました。 ※原作4巻以降、原作9巻以前からの参戦です。 【治療器具一式】 ゼロが保健室から調達した包帯、ガーゼ、消毒液などの簡単な医療器具セット。 時系列順で読む Back 忍び寄る悪意 Next ――――――geass 投下順で読む Back 私らしくあるためのImagine(幻想) Next ――――――geass Back Next 合言葉はラブアンドピース(後編) サカキ それは誰にも聞こえぬ歌――勇侠青春謳(前編) 合言葉はラブアンドピース(後編) 土御門元春 それは誰にも聞こえぬ歌――勇侠青春謳(前編) 合言葉はラブアンドピース(後編) ゼロ それは誰にも聞こえぬ歌――勇侠青春謳(前編) 合言葉はラブアンドピース(後編) 水銀燈 それは誰にも聞こえぬ歌――勇侠青春謳(前編)
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一歩踏み出して ◆Wott.eaRjU エリアE-2駅前に3人の男女が居る。 ゴム人間、動く少女人形、アルター使いと多種多様な三人。 彼ら全員、誰もが常軌を逸している存在。 しかし、その事を気に留める者はこの場には誰も居ない。 そう。それよりも気になる事があるのだから。 「私は真紅。人間、お前の名は?」 初めに口を開いたのは、この場で一番背が低い少女。 低いというよりも寧ろ低すぎるといったところか。 生ける人形、ローゼンメイデンの5番目のドール。 赤いヘッドレスを被った人形、それこそが真紅。 言葉と共に、小さく前へ一歩踏み出す。 同時に、ツインテールに結った金髪がふわりと揺れる。 優雅さを失わない振る舞いが、彼女の気品さを窺わせる。 青色の輝きを秘める両眼で真紅は前を見据え、返事を待った。 しかし、暫く待っても返ってくる言葉はない。 真紅の視界には、麦わら帽子を被った一人の少年が確かに居るというのに。 自分の言葉が聞こえていないのだろうか。 そう思い始めた最中、やがて真紅は悟る。 (どうやら、お邪魔だったようね……) 見れば少年の周囲には、赤い血がまばらに散っていた。 理由は既にわかりきっている。 衝撃音を伴わせながら、言い争っていた二人の声が物語る。 つい先程まで戦闘行為が行われていた紛れもない証。 片方の男の声は然程大きくはなかったものの、少年の声は大きかったため良く聞こえていた。 そのために真紅はこの場に来たのだ。 わざわざ様子を見るために少しだけ早足で。 無駄な時間は使いたくはない。 そう思ったからこそ目の前の少年に直ぐに声を掛けた。 何があったのか……そう訊こうと思ったのだが、流石の真紅も次の言葉を繋げない。 理由は簡単だ。たとえ浮かべる表情が見えなくとも、それぐらい見て取る事は容易い。 麦わらの少年は両肩を震わせて、その場に蹲っていた。 本当に、本当に只、何か大きな感情を。 悲しみに打ちひしがれたような様子が、少年の背中からは感じられた。 故に取り敢えずはこれ以上の口出しはやめておこうと真紅は考える。 「聞こえてないんですか? そこのあなた、何か言ったらどうです?」 だが、彼はそんな事は気にも留めないようだ。 思わず溜息を零す真紅。さも呆れたような表情が自然と浮かぶ。 次にややけだるそうに真紅は振り返った。 同行者、橘あすかが大袈裟に、麦わらの少年に対して呼びかける姿が映る。 またあすかは心なしか、いやに生き生きとした様子だ。 少しは場の空気というものを読まないのだろうか。 真紅はやや冷めた目つきであすかを眺めながら、そんな事を思う。 しかし、真紅は同時に何か可笑しくも感じた。 何故なら真紅はあすかの微妙な変化に大体の目星は付いていたのだから。 (きっと嬉しいのね。でも、良くやったのは事実。嬉しいと思う事はわからなくはないのだわ、あすか) 大方、少年と戦っていた人物を追い払った事によるものだろう。 あすかのアルター能力、通称“エタニティ・エイト”は8つの玉を用いる。 様々な用途に応用でき、先程の様に玉による直接的な打撃も可能だ。 実際にあすかは、鮮やかな手際で戦闘を停止させた。 自分の手腕に、少なからず酔っているに違いない。 可笑しさは込み上げ、それは苦笑という形で零れ落ちる。 単純な思考。しかし、それがあすかの初々しさを現わしているようだと真紅は考える。 まあ、少しは褒めてやっても良いかもしれない。 ふとそんな事も思い、真紅はあすかの近くまで歩を進めて―― 「い、いたあああああッ! 何するんです、真紅!?」 「うるさい。あすかの癖に生意気なのだわ」 彼の右足を思いっきり蹴っ飛ばした。 やはり何だか無性に腹立たしい。 こんな事で調子に乗ってもらっては正直困る。 人形と言えども真紅の蹴りは何気に痛い。 ゲシ、という擬音が不気味な程に低く響く。 あすかにしてみれば意味がわからないだろう。 思わず右脚を抱えて、無事な片足であすかはその場でぴょんぴょんと数回飛び跳ねる。 言葉とともに抗議の意を乗せた顔で、あすかは真紅を見返す。 だが、真紅は少しも気に留めていないようだ。 抗議を続けるあすかをあしらうように、真紅は視線を逸らした。 さも鬱陶しそうな挙動は、あすかに対しての扱いが実に粗雑なものだと物語る。 恐らくあれが関係しているのだろう。 以前、あすかが真紅に何の相談もなしに列車への乗車を決めた一件。 自分が無視される事を真紅は特に嫌い、不都合な事や不快な事は割と根に持つ。 まあ、自分が無視する分には別にどうって事はないのだが。 そして真紅は、あすかの事は取り敢えず置いといて、再び視線を向ける。 (反応は……なし。難儀なものね、まったく) 依然として麦わらの少年が沈黙を貫く。 少年は傷を負っているもの、一歩も動けない程の怪我を負っているようには見えない。 では精神的な問題なのだろうか。 何か、余程ショックな事を知ってしまったのだろか。 もしそうであるならば可哀そうだとは思う。 しかし、何も喋ってくれなければこちらも対応のしようがない。 いっそ少し強引にコンタクトを取ってみようか。 そもそも自分が折角言葉を掛けているというのに、ずっと無視されている事は正直気に食わない。 これがあすかならば、今頃蹴りから連なる様々なお仕置きを叩き込んでいるのだが。 少々脱線気味になり始めた思考を軌道修正し、真紅は改めてどうするかを思索する。 そんな時、どこからともなく声が流れ始めた。 『さて時間だ――』 聞き覚えのある男の声。 忘れもしない、主催者であるギラーミンの声色。 何事か、と思いながらも真紅は意識を声に向ける。 見ればあすかも、麦わらの少年の方も微かに反応を見せているようだ。 やがて三人はその耳で聞く事になる。 互いの知り合いの名前を。 もう、出会う事のない彼らの名前を。 ◇ ◇ ◇ 数分で終わりを告げた1回目の定時放送。 しかし、放送が終わった後も口を開く者は一人も居ない。 麦わらの少年は勿論、真紅もあすかも。 只、放送の内容を書き留めたメモ用紙を握りしめているだけだ。 永遠にも感じられてしまいそうな沈黙が、重々しくその場を支配する。 やがて、一人の人物が徐に口を開く。 「……いつまでもこうしているわけにはいきません。行動しましょう、迅速に」 最初に口を開いたのはあすか。 あすかは、メモ用紙と死者の名前に印をつけた名簿をいそいそと片付ける。 その動作にはあまり焦りは見られず、三人の中では一番落ち着いているようだ。 が、あすかが先程の放送で感じた事が何もなかったわけでもない。 6時間で15人の死亡者。大体20%弱、5人に1人は死んでいるこの状況。 こんな殺し合いを以前に行った事はないため、ペースが速いのか遅いのかはわからない。 わかるのは、自分以外の人間が、僅かな6時間の内に15人も死んだ事のみ。 その事実はあすかに衝撃を与え、恐らく真紅と麦わらの少年の場合も同じ事だろう。 そしてあすかにとって衝撃的な事がもう1つあった。 言い方は悪いかもしれないが、名も知らぬ14名の参加者の死亡事実よりも大きな意味を持つ。 そう。一人の参加者の死亡は、あすかにとっては予想外な出来事でしかなかった。 (劉鳳……まさかあなたの絶影が倒されるとは……。 正直、驚いていますよ……あなたの力を知っている身としては) 劉鳳。あすかが所属する、誇り高き治安維持部隊、HOLYの同僚である青年。 エリート隊員で構成されるHOLY部隊の中でも、特に高い実力を持った劉鳳。 絶影と呼ばれるアルターを操り、社会不適合者共を制圧する姿はなんとも頼もしかった。 あすかは劉鳳とプライベートでは特に交流を持った事はない。 しかし、それでも劉鳳が信念を持った、HOLY隊員であるのはわかっていた。 以前、自分と戦ったカズマが、HOLY本部へ単身による奇襲を掛けた事がある。 その際、劉鳳は隊長であるマーティン・ジグマールの身の安全を優先した。 シェルブリッドを受け止めるための絶影を、防衛に回した事により貰った一撃。 劉鳳の技能ならば、そんなものを貰う必要もなかっただろう。 だが、己の身よりも第一にジグマールを死守した劉鳳は、まさに尊敬に値するHOLY隊員といえる。 一人の仲間の死に、あすかは確かに悲しみを覚えるが、いつまでもそうしてはいられない。 (ですが安心してください。 あなたが抜けた穴はこの僕が埋めて見せましょう……そう、エタニティ・エイトの、この橘あすかが……!) それどころかあすかの表情には、最早憂いといったようなものは見られない。 知り合いが死んだというのに、あすかはそれほどショックを受けていなかった。 いや、もしかすれば、その事に気付いていないのかもしれない。 あすかは今、一種の興奮状態のようなものに陥っていた。 A級アルター使いと評され、周囲から一目置かれていた劉鳳。 そんな彼が早々に脱落し、自分はいまも五体満足の状態で生きている。 A級でなくB級である自分が、それも小さな少女という一種のお荷物を抱えているにも関わらず―― 語弊があるかもしれないが、少なくともあすかはその様に認識している。 更に先程の一件から、既に自分の能力を過信している節があった。 故にあすかは更に言葉を続ける事が出来る。 無神経な、周りの事に対して十分に気を配れていない言葉を。 「ほら、いつまでそうしているんです? 先程何があったのか僕達に話して下さい」 一歩踏み出し、前へ進ながらあすかは言葉を掛ける。 目線の先には麦わらの少年。相も変わらず、何も反応を見せない。 寧ろ先程よりも、俯いた表情には険しさが色濃く現れている。 だが、あすかは気づいていない。 真紅が何も言わない事を肯定と受け取り、自分の話を進めていく。 「何故、何も言わないのです? 全く……馬鹿ですか、あなたは? こんところで無駄に時間を費やす暇はないというのに」 次第に苛立ちが募ってきたのだろう。 あすかは呆れかえったような様子を見せる。 頭を左右へ振り、自分にはまるで少年の行動が、さも理解出来ないといった仕草。 かといってこのまま状況が変わらなければ、あすかの方も都合が悪い。 よってあすかは少しだけ考える事にしてみた。 少年が何故ここまで自分を無視するのか――、と。 難しいことではない。答えは案外早く理解出来た。 「誰か知り合いが死んだのですか? お気持は察しますがそろそろいいでしょう?」 死んだ。 同時に、麦わらの少年が身体を震えるように揺らす。 確かな動きが垣間見えるが、あすかはまたしても気づかない。 反応を言葉には示さなかったためだ。 またしても沈黙か。あすかが認識したのは、その程度の事ぐらい。 あすかは慣れの感覚すらも覚え始め、更に再び歩を進めていく。 隣にいる真紅から離れ、麦わらの少年の方へ。 これで最後だ。半ば投げやり気味に言葉を吐き捨てるように紡ぐ。 「受け止めないといけない、彼らは死んだのです」 手を少年の方へ伸ばす。 これ以上何も反応がなければ、強引にでも振り向かせてやろう。 いっそエタニティエイトによる干渉を行い、知っている事を洗いざらい聞き出すか。 それでもいいかもしれない。 少年の態度によって今まで積もった鬱憤から、あすかはそう思い始める。 この言葉が、これから言おうとする言葉が少年にとってどういう意味を持つのか。 それを考える気遣いは生憎あすかにはない。 だから、あすかは言った。ある意味では正しい、そしてある意味残酷な言葉を。 「今更何をしても意味がない、もう――“仕方ないんですよ”」 これ以上言う事もないだろう。 既に何もかも手遅れなのだ。自分が言った事は、なんら間違っていない。 伝えるべき事は言ったという様子で、あすかは腰を落とした後に手に力を込める。 少年の肩をしっかりと掴む。未だ立ち直れない少年の心が、とても脆弱なものだと思う。 こんなものではこの先生きてはいけないのではないか。 ふと、少年の事をどこか他人事のようにあすかは考える。 まあ、こんな礼儀も知らないような少年は、どうせ赤の他人に変わりはないのだが。 そんな時あすかは――感じた。 急に身体全体が前へ引っ張られるような感覚が襲う。 何が起きたのかを理解する前に、視界に入ってきたものが一つ。 それは―― 「仕方ない――なんて言うんじゃねぇ!」 今まで何も反応を見せなかった少年の大きな顔がそこにあった。 海賊王を目指す少年――ルフィ。 麦わら海賊団船長があすかをその両眼で睨んでいた。 ◇ ◇ ◇ ルフィはいきなり立ち上がり、同時に振り向く。 驚いた様子のあすかを気にも留めずに、彼の胸倉を掴み、中腰の姿勢であった彼を引き上げる。 両眼を見開き、真っ黒な瞳であすかを正面から睨んでいる。 その迫力は凄まじく、思わずあすかは言葉を失う。 大事な制服を乱暴に扱われている事の抗議すらも口に出せない。 理屈ではない。 自分の言葉が、何かを引き起こしてしまった事を本能であすかは理解する。 あすかに出来る事は限られている。 唖然としたまま、あすかはルフィの言葉を黙って聞き入れる事ぐらいしかなかった。 「ウソップが死んじまったコトを“仕方なかった”で片付けられるかよ……! あいつとの思い出は、おれ達の冒険は……そんなちっぽけなものじゃない!」 ルフィが片腕に力を込めながら叫ぶ。 更に制服を引っ張られたため、あすかの表情が痛みにより僅かに歪む。 しかし、ルフィは止まらない。 麦わら海賊団の狙撃手であるウソップの死。 ルフィにとっては予想していなかった出来事であり、且つ悲しみを覚えずにはいられなかった。 付き合いは長い。海賊団の中でも、入団の時期は前から数えた方が早い。 当然、ウソップとは様々な思い出があった。 笑った。くだらないコトを言って、大いに笑い合った。 冒険の途中で出会った敵と共に戦い、仲間の絆を確かめ合った。 ルフィ以外の仲間達には、直ぐばれるような嘘を何度も言っていたウソップ。 喧嘩したこともあった。海賊団から抜けた時もあった。 忘れる事もない、あの時ウソップと行った決闘。 彼の強さを、仲間としての心強さを改めて確認したあの瞬間が鮮明に蘇る。 あの嘘が、どこか憎めない笑顔が、もう自分達の海賊団では見られない。 もう二度と、何があろうともウソップが、自分の名前を口にする事もない。 いつの事だったか、そげきキングと名乗った、あの愉快な狙撃手がもう帰ってくる事はない。 たとえ何があろうとも、自分達の冒険に終わりが見えたとしても――絶対に。 そう思うとルフィは悲しみと共に、どうしようもない悔しさが込み上げてくるのを確かに感じた。 「ウソップは大事な仲間だったんだ……おれ達の、大事な……仲間だったんだあああああああああああああああ!!」 一際大きな声。 怒り、悲しみ、後悔――幾つもの感情が混ざり合って、大きな流れを作り出す。 幾ら叫んだとしても、ウソップの死を覆せはしない。 そう、結局こんな事には意味がない。もう“仕方がない”事なのだ。 頭ではわかっていようとも、ルフィは黙って受け入れたくはなかった。 麦わら海賊団の団長である自分が受け入れてしまう そうすれば、ウソップの存在が、本当に何処か遠くへ行ってしまいそうで――怖かった。 今まで命の危機を感じる事はあったが、自分や知り合いが実際に命を落とすまでの事は多くなかった。 しかもウソップが命を落とした理由が、見知らぬ男が開催した殺し合いによるものときている。 馬鹿げた事だ、本当に馬鹿げている。 何故、ウソップがこんな場所で死ななければいけなかったのか。 ウソップを殺した奴を許せないと思うと同時に、ギラーミンに対しても怒りを燃やす。 勿論、ウソップだけではない。 エルルゥ、先程の放送で知ったトウカ、そして戦ったばかりであるベナウィを始めとした14人も忘れられない。 エルルゥの墓と交わした約束を既に破ってしまった事による申し訳なさを力へ変える。 ギラーミンを倒す力へ、大切な仲間を守るための力へ――ルフィはひとえにそれを望む。 だが、突如として襲いかかった事実に対し、ルフィは慟哭をあげる。 「……あなたの話はわかりました。ですが、やはりもう仕方のないことであって、それよりも――」 「わかってる! わかってるけど、おれは……おれは……!」 「い、いい加減に離して下さい!」 一方、あすかの方はルフィの馬鹿力から逃れようともがく。 ルフィの叫びから、自分がずけずけとものを言い過ぎたのはわかっているのだろう。 しかし、先ずはこの不愉快な拘束から逃れようとあすかは身を動かす。 生憎、興奮状態にあるルフィを、落ち着かせるという選択肢はあすかにはなかった。 そしてルフィの方は、あすかの抵抗に応えるように腕の力を強める。 理由は定かではないが、半ば無意識的に行ってしまったのだろう。 逃げようとするあすかを引きよせる形となる。 その挙動は自分の激情を知ってもらいたいような素振りにも見えた。 そんな時、二人の元へ駆け寄る影が1つあった。 「……二人とも、ちょっと屈んでちょうだい」 言うまでもない、真紅だ。 言い争っていたルフィとあすかは一瞬、言葉を詰まらせる。 二人は訝しげに真紅を見やるが、さも真剣な眼差しを返される。 次に互いに視線を合わせ、目配せをほぼ同時に行った。 どうする――?、と奇しくも彼ら二人はこの時は妙に気があった。 真紅はその様子を見て、間髪入れずに再び口を開く。 「さっさとしなさい!」 一声。 両腕を組み、悠然と構えながら真紅はそう叫ぶ。 明らかに怒り――いや、苛立ちといった方が正しいかもしれない。 兎に角、好意的な感情が籠っていない声である事は確かだ。 ここは一応言う通りにして置こう。 そう思い、逸早くあすかが腰を屈ませて、ルフィもその動きにつられる。 二人の目線は下がり、真紅のそれとの距離は近くなる。 これからどうするのだろう。 尤もな疑問を抱く二人を余所に、真紅は徐につま先立ちで、少し背を伸ばして―― 「「う、うわ!」」 二人の頬を平手ではなく、真紅は自慢のツインテールで力強く叩いた。 真紅のツインテールによる打撃は、ローゼンメイデンの姉妹達の中でもその鋭さには定評がある。 特にですです人形こと翠星石いわく――“進化している”、だそうだ。 そして予想外だったのだろう。 彼ら二人は程度に違いはあれど、それぞれ驚きの言葉を口にする。 真紅はその様子を、ジトーと冷たげな視線を送りながら確認。 溜息混じりに言葉を紡ぐ。 「少しは落ち着いたかしら?」 「あ、ああ……悪い」 真紅の言葉が示すとおり、彼女はルフィの動揺を落ち着かせる事を狙っていた。 対するルフィは素直に礼を返す。 実際、完全とはいえないまでも落ち着きは徐々に戻っている。 ゴム人間であるルフィには、先程の打撃はあまり効きはしなかったが、多少の刺激にはなった。 青色の輝き、どこか造られた感が拭えない真紅の瞳がルフィを静めていく。 真紅はルフィの様子を観察し、やがて満足げに小さな笑みを浮かべる。 どうやら上手くいったようだ。 不意に真紅自身にも安堵のようなものが生まれる。 だが、そんな時無粋な言葉が横から突っかかる。 「ところで真紅、何故僕まで? 落ち着かせるのであれば彼だけで良かったのでは……?」 「……ちっ、細かいわね。別に減るもんじゃないし良いじゃない」 「は、はぁ!? なんですか、その態度は!? あなたの中では僕は一体どういう扱いなのですか!?」 「下僕よ」 「は、初耳だ!? しかも即答ですか!? 」 「……おまえら、見てるとなんか面白いな!」 「見世物じゃありませんよーーーーー!!」 ルフィの表情には段々と生気が漲り出す。 あすかの方も先程抱いた、己の力への過信も、ルフィに対する嫌悪もどこかへ失せたような様子だ。 しかし、二人は気づいていない。 真紅は確かに笑ってはいた。 目線を逸らし、さも捻くれた様子であらぬ方向を見ている。 だが、その笑みの奥底では耐え難いものがひっそりと隠れていたことに。 そう、真紅もまた大きな衝撃を覚えていたのだから。 先程の放送に対して。 ◇ ◇ ◇ 「じゃあ、おれはいくぜ。ゾロ達やハクオロ、アルルゥ、カルラって人達に会ったらよろしくな!」 「ええ、わかったのだわ。ルフィ」 「よし! 頼むぜ! “チンク”」 「……微妙に違うのだわ」 「あれ? あーーー真紅だったか! 悪い悪い!」 「先行きが不安ですねぇ……」 「うるせぇぞ、“むすか”」 「ほら、また間違ってるじゃないですか! あすかですよ、橘あ・す・か!」 ポンと手を叩き、いしししと特徴的な笑みを作りながら、得心がいった様子を見せるルフィ。 真紅とあすかの方はというと、自然と溜息を零している。 ルフィを知る者ならば、予想には容易い。 案の定、彼らの名前を字間違えながら、ルフィは彼らと別れの挨拶をする。 一緒に行動しようとは思ったが、分散した方が互いの知り合いと合流できる可能性も高くなる。 既に知り合いの何人かが死んでしまった現状であり、ぐずぐずしている暇はない。 あすかもまたルフィに対する蟠りは捨てきれず、結局ルフィとは別行動を取ることに決めていた。 そのため、ルフィとあすかの仲はあまり良いものとは言えない。 まあ、あすかの方が少し過剰気味に、ルフィを毛嫌いしている節が少しあったのだが。 ちなみに互いの知り合いの名前や、放送があるまでの簡単な行動についての情報交換は終えている。 真紅とあすかが齎した、この会場がループしている情報はルフィを大いに驚かせた。 一方ルフィが教えたのは二人の危険人物の情報であり、真紅とあすかは彼らの特徴などを深く記憶した。 「えーーーっとそれで真紅の知り合いが翠星石、蒼星石。あすかの知り合いはカズマ、クーガーでいいんだよな?」 そして参加者名簿を片手にルフィが確認する。 但し、カズマの方は知り合いといってもあすかとは敵対関係にある。 また、この殺し合いに呼ばれた時点では、無常矜持とあすかに接点はないため、彼の事には触れていない。 あすかはその旨を伝えて、ルフィはしっかりと頷く。 しかし、真紅の方は首を縦には振らない。 「それと水銀燈もだわ」 「お? わかったわかった。よし、これで……と。それでこいつとはどういう関係なんだ?」 「……姉妹よ。長い間仲が悪い、姉妹の内の一人だわ」 「ふーん、そっかぁ……」 手で頭を掻きながら。ルフィはしげしげと水銀燈の名前を見つめる。 何か疑問を抱いたのだろうか。 真紅はルフィの仕草からそう考えるが、心辺りはない。 もしや此処に来るまでに出会った事があるのかもしれない。 名前の間違いから、ルフィの記憶力がお世辞にもいいものではないのは事実。 だが、水銀燈を含めてローゼンメイデンは人形であり、その外見は特徴的だ。 よって流石にそれはないだろうと真紅は密かに思う。 ルフィはそんな真紅の様子に気付く由もなく、言葉を続ける。 「でも、昔は仲良しだったんだよな? 真紅と水銀燈は?」 「え、ええ……そうね」 真っ黒な瞳。 純粋な、一点の曇りもない瞳はルフィの人間性を映し出す。 その瞳と言葉を突き付けられて、真紅は詰まりながらも返事を返す。 仲良し――確かにそうだった。 以前、本当に以前には午後の紅茶を楽しんだりもした。 未だアリスゲームが始める前の、一世紀以上も前の出来事。 当事者である真紅ですらも既に色褪せたものでしかなく、今となっては遠い夢の記憶にも等しかった。 だが、その事を知らない筈のルフィは、さも当然のように言い放つ。 「だったらおれが真紅と水銀燈を会わしてやるよ! 姉妹なら仲良しの方が良いに決まってるだろ!」 力強くルフィはそう宣言する。 真紅はアリスゲームを、姉妹同士で互いに戦い合う宿命はルフィには教えていない。 もしその事を言ってしまえば、ルフィはきっと心の底からアリスゲームの是非を疑うに違いない。 間違いない。ルフィの性格からそうに決まっている。 出会ってから僅かな時間しか経っていないにも関わらず、真紅は確信が持てた。 愚直なまでに真っ直ぐな心が、ルフィの言葉からひしひしと感じる事が出来たのだから。 最早水銀燈との関係の修復は無理だと思っていても、なんだか少しは望みが持てる気すらもしてくる。 きっとこれもルフィの人柄が成せる事のなのだろう。 真紅の沈黙を肯定の意と受け取り、ルフィは満足げに笑う。 真っ白な前歯を惜しげもなく見せびらかして―― 「じゃあ、また絶対に会おうな!!」 心の奥底で死んでいった者達を留めながら。 掛け替えのない仲間を、未だ見ぬ仲間達との合流を焼きつける。 そして味わった悲しみを忘れない様に――ルフィは走り出していった。 いつもより少し寂しげな背中を見せながら、それでいて足取りはしっかりと。 【E-2 駅周辺 1日目 朝】 【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】 [状態]:右手のひらに切り傷 、左肩から胸にかけて浅い切り傷、右足ふくらはぎに深い切り傷、中度の疲労 ウソップ達の死に悲しみ(出来るだけ我慢している) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 ・三代目鬼徹@ワンピース、エルルゥの首飾り@うたわれるもの [思考・状況] 1:エルルゥの仲間を探し、エルルゥの墓前に連れて行く 2:ギラーミンブッ飛ばす! 3:ワニ(クロコダイル)は会ったらブッ飛ばす! 4:一応探すけど、ゾロ達は一人でも大丈夫だ! 5:翠星石、蒼星石、水銀燈、クーガーとの合流。カズマには注意。 【備考】 ※原作44巻(第430話)終了後から参戦。 ギア2およびギア3の能力低下、負荷は凄まじいものになっています。 ※悟史の金属バッド@ひぐらしのなく頃に、基本支給品一式、アミウダケ@ワンピース 、サカキのスピアー@ポケットモンスターSPECIAL、 庭師の如雨露@ローゼンメイデンはデイバックに詰められ、エルルゥの墓の前に置かれています ※真紅、あすかと情報交換をし、一回目の放送までの二人の行動を大体知りました。また、会場がループしている事も聞きました。 ※何処へ向かうかは次の方にお任せします ◇ ◇ ◇ 「行ったか……騒がしい奴だったな……」 駅のホームに備え付けられたベンチに腰掛け、あすかは言葉を発する。 落とした視線の先には、しわくちゃになった自身の制服。 ルフィの力がいかに相当なものであったかを今でも思い知らさせる。 アルターもないのにこれ程までとは――実際にルフィと戦わずに済んだことに、つい安堵を覚えてしまう。 そうだ。たとえアルター使いではなくとも、劉鳳を打ち倒す程の参加者が居るのだ。 浮きたった自分を見つめ直し、あすかは気を引き締める。 何故なら自分は死ぬわけにはいかない。 大事な、大事な恋人があそこで自分を待っているのだから。 「しかし、真紅は遅い。全くこれだから……」 待つと言えば今の自分もそうだ。 あすかは電車を待つと同時に、真紅の事も待っている。 以前、あすかは真紅に会場全体を回ってみたいと提案し、それを実行に移すためだ。 となれば此処から最も離れた駅はG-7にあり、取り敢えずの目的地は其処に決めていた。 但し、知り合いや協力してくれる参加者を捜す為に、途中でC-4の駅で降り、ある程度の探索をするつもりだが。 しかし、真紅はルフィと別れた後、少し用があるからあすかに対し先に行くようにと言った。 何故だろうか。改めて理由をあすかは考えるが――やがて、答えに辿り着く。 「そ、そうか! 確か真紅の知り合いに……」 何故気づかなかったのか。 劉鳳の死から湧きあがった優越感、そしてルフィの対処に気を取らていたのかもしれない。 真相は判らないが、あすかはそれよりも今の真紅が心配になった。 そう。先程の放送で呼ばれた桜田ジュンという名前は―― 「待たせたわね、あすか」 そんな時、真紅がゆっくりとした足取りで階段を上り、あすかの方へ進んでいく。 凛とした表情、歩の進め方は堂々としている。 あすかは何かを言い掛けようとするが、口を半開きにしたまま、何も言えない。 驚いたような目つきによる視線の先には、真紅の小さな顔。 真紅の表情には歪みはなく、至って平然な様子だ。思わずあすかは言葉を失う。 やがて電車の到着を知らせる警音が響き、程なくして二人の前で自動ドアが開く。 「さぁ……行くわよ」 真紅の声のトーンが、心なしか落ちたことにあすかは気づく。 ハッとした様子をあすかは見せるが、言葉には出さない。 只、力強く真紅の言葉に頷く。 真紅はあすかの無言の応答を横眼でちらりと見る。 (ジュン……おまえは良く頑張ったのだわ) 思い浮かべる。 桜田ジュン。真紅の現在の契約者であり、力の供給源――ミーディアム(媒介者)。 ジュンはお世辞にも優秀な契約者とは言えなかった。 体力はなければ、特に秀でた能力もない。 とある事情で学校とやらにも行かず、他者からの干渉を嫌った。 だが、ジュンはあの日巻いたのだ。 ローゼンメイデンの螺子を巻き、アリスゲームに関わる資格を否応なしに受け取った。 そこから始まったジュンとの生活の思い出は一際色濃い。 今までアリスゲームが中断される度に、何度も何度も契約者を変えてきた真紅の中では。 以前、自分の身体から引き抜かれた両腕を、ジュンが元通りにしてくれた事があった。 あの時は素直にジュンの素晴らしさを褒めた。 誇りに出来るように、自分への自信が持てるように――そう願った。 いつかジュンが自分の足で、外の世界に向かって歩いていける事をひとえに。 だが、ジュンは死んだ。 どこの誰かもわからない参加者に。 一人で居たのならきっと一方的に殺されたのだろう。 悔しいとは思う。悲しいとは思う。 何故ジュンがそんな目に遭わないといけないのかと思う感情は当然ある。 しかし、あすかが言ったようにもう仕方ないのだ。 既に自分自身へその事を納得させる時間は十分に取った。 つい先程までの空白の時間の使用の用途がそれだ。 そして今すべき事は前に進むことだと真紅は信じる。 自分とジュンの立場がもし逆であれば、自分はそう望むだろうから。 “縛る”過去にはしたくはない。 後悔に押し潰されて、自分の未来を潰すような過去には。 だから忘れてはいけない過去にしよう。 今まで確かに、自分のミーディアムが居た事を。 大事な存在であった、桜田ジュンという少年が確かに傍に居た事を―― 真紅は小さな胸と心に深く刻む。 (だから、また――会いましょう。 今度はまた違った出会い方で。たとえばあなたが螺子を巻かなかった世界……もしそんな世界があるのなら……ね) 腰を落としていたあすかに眼もくれずに、真紅が数歩の助走を経て電車に飛び乗る。 きっと真紅の歩幅では乗車は難しいと思っていたのだろう。 良い心がけだ。妥協点を上げても悪くはない。 そんな事を思い、ジュンに対して、叶う事のない願望を混ぜた言葉を送る。 振り向き、慌てて自分の方も車内に乗り込んでくるあすかを見据えた。 「もう、何も失わせないためにも」 その眼差しには強い意思を乗せて。 【E-2 列車内 1日目 朝】 【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】 【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。 2:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。そのためC-4駅で下車し、最終的にはG-7駅を目指す。 3:ループを生み出している何かを発見する。 4:翠星石、蒼星石、クーガー、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラと合流する。 5:カズマ、水銀燈、クロコダイルに用心する。また、水銀燈が殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める。 【備考】 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降) ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っています。 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。 ※ルフィと情報交換をし、一回目の放送までの彼の大体の行動を知りました。また、二人の危険人物(バラライカ、ラッド)の特徴なども簡単に聞きました 【橘あすか@スクライド(アニメ版)】 【装備】:なし 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品1~3個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る。 2:列列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。そのためC-4駅で下車し、最終的にはG-7駅を目指す。 3:ループを生み出している何かを発見する。 4:翠星石、蒼星石、クーガー、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラと合流する。 5:カズマ、水銀燈、クロコダイルに用心する。特にカズマは気に食わないので、出来れば出会いたくもない 【備考】 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作5話辺り) ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました(アリスゲームは未だ聞いてない)。 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。 ※ルフィと情報交換をし、一回目の放送までの彼の大体の行動を知りました。また、二人の危険人物(バラライカ、ラッド)の特徴なども簡単に聞きました 時系列順で読む Back 方針 Next エル・ブエロ・ガザ・デ・フローレンシア 投下順で読む Back 方針 Next エル・ブエロ・ガザ・デ・フローレンシア Back Next 想いは簡単に届かない モンキー・D・ルフィ 救いと因果と 想いは簡単に届かない 真紅 エデンの蛇(前編) 想いは簡単に届かない 橘あすか エデンの蛇(前編)
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彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(前編) ◆OQO8oJA5SE 戻ってきた佐山と小鳥遊の様子を見た新庄は言葉を失った。 呆然とした視線を床に落としたままの小鳥遊宗太。 表情を消し、小鳥遊に肩を貸し連れてきた佐山・御言。 そして姿を見せないヴァッシュと――伊波まひる。 それらが佐山の言っていた"嫌な予感"が的中してしまったのだと、何よりも雄弁に物語っていた。 「そん……な……嘘でしょ……佐山君……」 「……嘘ではないよ、新庄君。 私たちは伊波君を……助けられなかった」 残酷な真実を、誤魔化すことなく告げる。 例え今誤魔化したところで、それが何の意味もないことを知っているから。 その言葉に新庄は涙を浮かべ、しかし歯を食いしばり、耐える。 対するゾロは表情を変えず、冷静に、ただ一言だけ言葉を投げつける。 「……やったのはあの人形か」 普段なら真っ先に水銀燈を擁護するはずの小鳥遊がその目を地に落としたまま。 その事が何よりも、それが事実であるということを指し示していた。 「……だったら尚更、この縄を外せ」 「ふむ……一つ聞くが、縄を外したら君は彼女を追撃するつもりかね?」 「あたりまえだろうが……!」 あそこで確実に叩斬っていればこんな事態にはならなかったのだ。 失った物は戻らないが、自分なりのケジメを付けなければならないだろう。 「では、私の話を聞いてくれると約束してくれれば、この縄を外してあげよう。 更には私の持ち物である治癒府をもう一枚進呈しよう。 先ほどから痛みが引いていないかね? それは君の胸に貼り付けられたそれの効果だよ」 そう言われれば全身の痛みが緩和されてきているような気がする。 「さて、……どうかね? 君にとっても損な取引ではないと思うのだが」 自力での脱出を何度か試してみたが、この変態は捕縛術でも習っているのか、ちょっとやそっとでは抜けそうにない。 それどころか暴れるほど食い込んできているような気さえする。 加えて傷だらけのゾロにとっても治癒府は魅力的なアイテムだ。 もう一枚あれば病院にわざわざ足を運ばなくてもいいだろう。 ゾロの脳内で秤が揺れ、そして――傾いた。 (仕方ねえ……話を聞いて即効で追いかけるか) 不承不承頷くゾロ。 対する佐山は朗らかな笑みを浮かべている。 「そうかね、それは大変結構だ。 では新庄君、ゾロ君の縄を外すのをお願いするよ。 何分、私の手は現在使えないからね」 「う、うん。わかったよ」 佐山に促され、新庄はロープを外していく。 ……なおその際に新庄が手間取り、より一層縄が食い込む羽目になったり、それによりゾロが石畳をのたうち回ったりしたしたことをここに記しておく。 * * 数分間の格闘の末、束縛から解放されたゾロは胡坐をかき、石畳の上にどすりと座る。 新庄が差し出した治癒符をひったくるように奪うと、佐山を睨みつける。 「……話があるんならさっさとしろ」 だがそんなゾロの不機嫌顔などどこ吹く風、とでも言わんばかりに傍若無人に話しかけるのが佐山・御言という男だ。 「さて、再度確認するが、君は今から水銀燈君を追って、……そして倒すつもりだね?」 「当然だ。今度は容赦しねぇ」 鋼鉄のような冷たい殺意が、短い言葉から滲み出す。 蹲ったままの小鳥遊の体がビクリと震え、傍にいた新庄の肌が自然とあわ立つ。 だがしかしそんな剣呑な視線を佐山は真っ向から受け止める。 「だが、それは承諾できない相談と言うものだ。 今現在、君は我々の最大戦力……いわば生命線なのだからね」 治癒符と付け替えた腕の再生能力によって回復しているとはいえ、未だ両手は使用不能。 新庄も高威力のトンプソン・コンテンダーを持っているものの、Ex-Stとは勝手が違いすぎる。 魔人の闊歩するこの場所においては、共に戦闘能力に不安が残る。 そんな彼らにとって、異能とすら剣のみで渡り合うゾロの戦力は手放せるものではない。 ただでさえ、今は"戦えないもの"がいるのだ。 佐山はちらり、と部屋の隅で蹲る少年に目をやる。 先ほど決意して魔獣に立ち向かっていった勇敢な少年の姿はそこにはない。 膝を抱え込み、茫然自失の体でぼんやりと掌の中のヘアピンを見つめている。 そんな彼から目を伏せるようにして視線を戻し、言葉を続ける。 「……それに彼女のことはヴァッシュ君に任せている。 そして私は彼と10時までここで待つと約束した。 ゆえに今、ここを動くことも出来ないのだ」 「俺には関係ない話だな」 「関係ありありの大ありだよ、ゾロ君。 君は目先の敵をなぎ倒して行って、それからどうするつもりかね? その後、知り合いと合流するあてでもあるのかね?」 返答は沈黙。すなわち否定と同義である。 「我々はなんとしてもこの状況を打破し、あのクソ生意気なツラをした変態仮面、 およびそのバックにいる連中に一発ぶちかまさなければならないのだよ。 そのために我々が今成さなければならないのは仲間を集めることだ。 些細なことで分断し、力をバラバラにすることではない。 ……力を貸してくれるね、ロロノア・ゾロ君」 佐山は迷いのない視線を真正面からゾロにぶつける。 対峙するゾロも瞳を逸らさず、無言のまま睨み返している。 2人の間から言葉が消え、ただ視線だけがぶつかり合う。 張り詰めた空気が軋み、まるで音が発つのではないかと新庄が錯覚するほど張り詰める。 そして、視線のみが力を持つ空間の中で、先に沈黙を破ったのはゾロのほうだった。 「……てめぇの命令は聞けねえ。俺が命令を聞くのは船長だけだ。」 「おや、勘違いしてもらっては困るね。 我々は同志、いわばパートナーだよ。つまるところ、これはいわゆる"お願い"に過ぎない。 その証拠に縄を解いた上に治療まで施しているではないかね?」 よく言う。縛ったのは佐山であるくせに、まるで随分と譲渡したかのような言い分だ。 そして、それをさも当然といった態度で貫き通す佐山・御言という男の図太さに、怒りよりも呆れが先に来る。 「……てめぇ、とんだ詐欺師だな」 「詐欺師とは失礼な。私は希代の天才だよ」 さも心外だと言わんばかりのその言葉に宿るのは、溢れるほどに漲る自分への自信。 先ほども失ったばかりだと言うのに、口先だけでなく心底そう思っている。 自分を信じて疑わないその態度を見て、ゾロの脳裏に麦わら帽子の陰が揺れる。 (……同類って奴か) 誰にも聞こえないような小さい声でそう呟く。 確固たる夢を持ち、それを追いかける大馬鹿野郎。 目の前の男は確かに変態野郎の馬鹿野郎だが……馬鹿で終わる人間という訳でもなさそうだ。 そう考え、もう一度どっしりと座り直す。 その態度こそが、答えだと言わんばかりに。 それを見て佐山は口の端を僅かに吊り上げる。 「礼を言うよ、ゾロ君。 では早速だが我々が今、出来ることを始めるとしよう。 新庄君、すまないがディバックの中から名簿と地図を取り出してくれたまえ」 「う、うん。ちょっと待っててね……」 光量の絞られたランタンの光を頼りに、新庄は地図と名簿を取り出し、机の上に広げる。 薄ぼんやりとした光の中、机の上に地図と名簿が広げられる。 「さて、準備は出来た。では聞かせてもらおう。 新庄君とゾロ君がこれまでに経験してきたこと……得てきた情報、そのすべてを」 彼らが今出来ること、やるべきこと……それは情報整理に他ならない。 情報の齟齬、そして現状の確認をせずに集団行動をとるのは、目隠しをせずにタイトロープの上を渡るようなものだ。 その危険性は集団の大きさに比例して大きくなる。 主催に対抗する大集団を作り上げる第一歩。ミスは、許されない。 慎重に、だが迅速にバックボーンを含めた情報を聞き出していく。 だが話を聞いていくうち、どうしても無視できない事実が明らかになってきた。 浮き彫りになってきたのは、そう、【佐山や小鳥遊の世界】と【ゾロたちの世界】の違いである。 グランドライン、悪魔の実、海賊王ゴールド・ロジャー……それらは佐山自身の世界だけでなく、彼らの知る別世界、11のG(ギア)のどれにも該当するものではなかった。 「……これって11のG以外にも、別のGが存在するってこと?」 「……かも知れないね。 UCATも現状、どのようにして其々のギアができたのかは調査中だという。 おお、我々は奇跡の証人と立ち会っているのかもしれないね」 だがそう言う佐山の顔に未知のものに出会ったという驚きや喜びはない。 そう、今重要なのは各々の世界のことではない。現在、自分たちが置かれた状況なのだ。 そして大まかな話を聞き終えた佐山は真剣な表情を作り、口を開く。 「……なるほど、大体判った。 では次は、先ほどの放送内容を整理しよう。 新庄君、すまないが……」 「うん、わかってる」 佐山の意図を察し、新庄はペンで次々と名簿上の名前を塗りつぶしていく。 両手の塞がった佐山では出来ない作業……先ほどの放送で呼ばれた名前を線で消しているのだ。 そして最後に震える手で"伊波まひる"の名前に線を引いて、ペンを置いた。 「ありがとう、新庄君。 ……さて、現時点で生存している可能性がある者はこの23名、というわけだね」 そう、たったの23名。 最初、この64km四方の場所にいたはずの人数の、僅か約3分の1。 この催し物が開催されてはや20時間前後……一日もたたずにこれだけまで減ってしまった。 主催者の背後にどれだけの勢力がいるか予想できない以上、一人減るごとに反撃の好機は消えていく。 佐山はそう考える。 「そのうち、友好的な接触が望める可能性が高い、かつ名前や大まかな外見がわかっているのはこの8名。 【真紅】、【トニートニー・チョッパー】、【ニコラス・D・ウルフウッド】、【ブレンヒルト・シルト】、【リヴィオ・ザ・ダブルファング】、【竜宮レナ】、【北条沙都子】、【古手梨花】…… 彼らとは一刻も早い合流を目指したいものだ」 だが佐山はそこで言葉を一度切ると眉間に皺を寄せる。 「……とは言え、彼らの現在の所在は不明。 また"知人の知人"クラスになれば、友好的かは……正直怪しいだろう。 故に、彼らとの友好度を二段階に分けるとしよう。 まず、信頼できる確率が高いグループは真紅君、チョッパー君、ブレンヒルト、ニコラス。 そこまで高くないグループはレナ君、沙都子君、梨花君、リヴィオの4名だ」 それを聞いてキョトンとする新庄。 だが佐山はそれに構うことなく話を続けていく。 「真紅君は面識が無いものの、クーガーと蒼星石君からの情報がある。信頼度はかなり高い。 チョッパー君はゾロ君からの、ニコラスはヴァッシュ君からの、そしてブレンヒルト君は私たちと直接の面識が―― 「ちょ、ちょっと待って! だったら何でこのリヴィオって人が信頼度が高くないグループなの?」 そう、その理屈だとヴァッシュと直接面識があるはずのリヴィオが後者なのはおかしいはずだ。 だがそれを聞いた真っ直ぐな視線を新庄に向ける。 「新庄君、一つ確認しておきたいのだが…… そのリヴィオという男の特徴は……"背が高くて変な髪形の刺青を入れた男"で間違いないかね?」 「う、うん、ヴァッシュさんの話を聞く限りそうとしか思えないけど……」 その特徴は自分たちを襲った【ラズロと名乗った男】の印象と合致する。 彼が嘘をつける人物だとは思えない。 ならばこの齟齬は一体何だというのか。 自分の勘違いか、それとも―― 「おい。そいつは妙な銃弾を撃ってこなかったか?」 「おや、君も彼と知り合いかね。 もっともその様子を見るに……君とも仲良しこよしというわけではなかったようだが」 言葉に緊張の色を孕ませる二人に対し、理解できない新庄だけが首を傾げる。 「ああ、この腕はモヒカン刺青野郎から奪ったものなのだよ。 我々を襲ってきた、ね」 「え……?」 「つまり、ヴァッシュの知り合いの【リヴィオ】という人物が、我々を襲った【ラズロ】と同一人物である可能性がある、ということだよ」 「! それは……ヴァッシュさんが嘘をついているって事?」 「いや……彼は嘘を言っている様子ではなかった。これは……」 この齟齬にボタンを掛け違えているような違和感を佐山は感じている。 だがそれか何かまでに至るには、まだ、ピースが足りない。 「……いや、現時点でこれ以上推測を重ねるのは危険だね。 確認するのはヴァッシュ君が帰ってきてからでも遅くはあるまい」 一息入れ、思考を次のフェイズへと移行する。 「では次は同様に名前のわかっている危険人物だが…… 【クレア・スタンフィールド】、【ミュウツー】、そして【ライダー】、【ゼロ】……この4名だ」 ポケベルに名前が表示された面子の中で、放送で呼ばれていないのはこの2名のみ。 クレアは一方通行、ミュウツーはトウカという人物を殺害している。 だが彼らの外見についての情報は一切無い。 更に殺害状況は依然として不明なため、正当防衛などの場合も想定できる。 だが、その可能性を考慮しつつ警戒するに越したことはない、と判断する。 次にライダーは前原圭一からゾロが伝え聞いた危険人物だ。 ゾロが聞いたところによると、何でも2mを越す髭の巨漢だと言う。 それだけの特徴があれば見間違えることは無いだろう。 そして、ゼロ……。 ヴァッシュが励まされたというその男は黒マントに黒覆面という非情に特徴的な格好をしている。 体格や水銀燈と行動を共にする点から見ても、先ほど獏が見せた人物と同一人物と見て間違いないだろう。 格好のセンスは残念だが、その下に隠された鋼鉄のような肉体の身体能力は異常の一言に尽きる。 ○のトリックを見抜いたことからしても、自分ほどではないが頭も切れるようだ。 そして――何より目的のためなら首輪を奪取することを戸惑わない冷徹さが声の端々に見て取れた。 水銀燈同様、信用するよりも警戒を持って相対したほうが良さそうだ。 「そういやテメェはどうする気だ? もしあの馬鹿が水銀燈をつれて帰ってきたら」 ゾロの声音に再び敵意が滲む。 「……さてね、彼女については正直対応を決めかねている。 ヴァッシュ君のこともあるし、蒼星石君も態度を決めかねていたようだったしね。 だから彼が帰還したらそのときにまた考えるとするよ。 ……新庄君も、それでいいかね?」 新庄としては複雑だろう。 水銀燈を見逃したのは何もゾロや小鳥遊だけではない。 新庄も小鳥遊を信じた結果とはいえ、彼女を見逃し……そしてあのような事態を招いたのだ。 言葉では答えず、ただ、小さな頷きだけを返す。 「……そして名前のわからない危険人物は【砂を操る男】。 一応、【ラズロと名乗った男】もここに入れておこうか」 【ラズロ】には直接襲われた。殺し合いを肯定する立場なのは疑いようが無い。 再生能力を持ち合わせるなら、そして追撃したクーガーの名前が呼ばれた今、生存の可能性は極めて高い。 そして先ほど自問自答したこと――リヴィオとの同一人物説――についても答えは出ていない。 【砂を操る男】は状況から見ても、伊波を助けたスーツ姿の男の殺害犯に違いあるまい。 『乾燥死』などという異常な死因をもたらすならば、何らかの異能力者であるだろう。 その反応に満足そうに頷くと佐山は思考を再び巡らせる。 さて、ラズロは偽名、砂を操る男は名前不明。 彼らの名前が"クレア"や"ミュウツー"である可能性は否定できない。 だがそこでゾロが再び口を挟む。 「……そういや、その砂を操る男は左手がカギ爪で顔にこう、こんな傷がなかったか?」 親指で鼻の上を横一文字に切り裂くジェスチャー。 それは獏の夢で見た巨大な男の特徴に一致する。 「おや、知り合いかね?」 「間違ねえな。そいつがクロコダイルだ」 「ふむ、ということは【砂を操る男】は危険人物からはずしてもよさそうだね。 それに……新庄君、君が伊波君と出会ったのは確か2時より前だったね?」 「う、うん……始まってから、そんなに時間がたってなかったはずだし……」 瞼を伏せ、脳内に示されたタイムチャートを辿る。 「……私たちがポケベルで把握できているのは大体午前四時前後までの死者。 となるとあのサラリーマン風の男性は"高槻巌"である可能性が高い、か。 ……もちろんイレギュラーゆえに名前を呼ばれない可能性の方が高いのだが」 「え、イレギュラーって……どういうこと?」 「私たちが発見した彼の死体には首輪が最初から付いていなかった、そういうことだよ」 驚きの表情を浮かべる2人に対し、佐山は更に言葉を畳み掛ける。 「私たちは獏によって、伊波君をサー・クロコダイルから助けた彼が生前から首輪をつけていなかった光景を見ることが出来た。 そこから少々突飛だが、"彼は元々この場所に呼ばれた参加者ではなかった"という可能性を推測した。 事実、それを示唆するようなものもいくつかある」 そう言って佐山が取り出すようお願いしたのは一つの地図。 小鳥遊のディバックに入っていたそれは、だがしかし新庄たちが見慣れた地図ではない。 茶色い図面に蜘蛛の巣のような線が幾つも引かれている。 「佐山君、これは?」 「"彼"が残してくれた地底の地図だよ。 この会場には、このように地下通路が形成されている。 そして、獏が見せてくれた記憶の中に彼がこれを隠す光景があったのだ。 ……ゾロ君、迷宮探索ボールはまだ持っているかね?」 その問いかけにゾロは首肯し、奇妙な球体をディバックから取り出す。 「そう、こんな便利な物が支給されているのに、こんな下位互換を用意する必要は特に無い。 であるならばこれは彼の私物――主催者の思惑から外れたものだと考えられる。 ならばここには主催者が知りたくない、何かがあるのではないか……ともね。 ……だから私は提案するよ。 彼が戻り次第、危険を承知で地下への探索を開始しようと思う。 ヴァッシュ君、そしてゾロ君がいれば戦力としては上出来だからね」 それが虚栄に過ぎないことは誰の目にも明らかだ。 伊波との戦闘で、2人とも怪我だらけで本来の実力を発揮できそうにない。 だがそれでもこれ以上の遅れは致命に繋がる……そう佐山は結論付けた。 そして思い出したように言葉を加える。 「ああ、戦力といえば、あとで"○"の窪みもチェックしておかなければならないね」 「窪み?」 「ああ。これまた獏が見せてくれた過去だが、ここの居館、大広間には○の窪みがある。大、中、小の窪みがね。 それが意味するのは恐らく――」 「首輪か」 ゾロの言葉に佐山は僅かに口の端を吊り上げる。 「君が予想以上に聡明だったことは実に嬉しい誤算だね。 そう、他人の首輪と引き換えに何らかの褒美があると考えるのが当然だろう。 そして我々の手にはいくつか首輪がある」 ゾロが持つ、概念の声を聞いたという首輪。 そしていまだ回収していないが、城内に存在している仮面の男の首輪。 そして……先ほど残された伊波の首輪。 解析のために数が必要とはいえ、3つもアテがあれば一つぐらいは試してもいいだろう。 だがゾロはその言葉に反論を叩きつける。 「待ち受けているのが罠っ可能性はねえのか?」 「ほう、その理由を聞こう」 「決まってる。そんなことをしてあのギラーミンの野郎に何の得がある。 力を与えるにしても、何でこんなまどろっこしい真似をする」 「それを言うならば、この殺し合いの時点で主催者は矛盾だらけだよ。 ギラーミンが復讐の対象と言った"のび太"という少年は早々に死んでしまった上に、会場に仕込まれたギミックは殺し合いと関係ないものも多々ある。 ――さっきの地下通路網などその際たるものだよ。 そもそも殺し合いをさせるためだけならば、世界一つを創造するなど手間の掛かる真似はすまい」 「世界の創造」という言葉に奇妙な表情に変わる彼らに対し、数時間前、小鳥遊に対してと同じように地図の端をつなげるよう指示する。 そして2人の表情が変わるのを確かめてから、言葉を続ける。 「嘘の主催理由、ちぐはぐな会場、間違いだらけの支給品……まぁここまで気づくのは主催者としても想定内だろう。 ……しかし、私たちにはそこに打ち込むべき"楔"がある」 そう、主催者にとってイレギュラーである、あの男の存在を自分たちは知っている。 「彼が言っていたよ。足を止めるのは絶望ではなく諦観だと。 故に我々は歩みを止めてはならない決して、ね」 気づいたヒント……その多くはおそらく与えられた矛盾だろう。 それを探査するということは、主催者という釈迦の掌の上に自ら乗り込む行為に他ならない。 だが死中に活という言葉があるように、そこには……いやそこに"しか"、きっと勝機というものはありはしないのだろう。 新庄は深く同意するように、ゾロは当然だと言うように首を縦に動かした。 そして佐山はそんな2人に対して満足げに、笑う。 「……さて、状況整理はこのぐらいにしようか。 首輪の情報については、少し自分なりに考えてみたいのでね。 この場ではノーコメントにしておくよ。 ――特に、概念が使われていると言うのは興味深い点なのでね」 そう締めくくると先ほどまで張り上げ気味だった声のトーンを一段階落とす。 「……さて、新庄君、もう一つ頼みが一つある。 ゾロ君を連れて少し部屋を出ていてくれたないか? 私には……もう一つ、やるべきことがあるのでね」 その視線はただ真っ直ぐに、部屋の隅で蹲る少年に向けられていた。 * * 時系列順で読む Back ブラック・エンジェルズ Next 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編) 投下順で読む Back ブラック・エンジェルズ Next 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編) Back Next 罪と罰(後編) 小鳥遊宗太 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編) 罪と罰(後編) 佐山・御言 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編) 罪と罰(後編) ロロノア・ゾロ 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編) 罪と罰(後編) 新庄・運切 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(後編)
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GO AHEAD◆tt2ShxkcFQ ━━ガタン━━ゴトン━━ 耳に入るのは、断続的に続く音。線路を電車がひた走る音。 ━━ガタン━━ゴトン━━ それは彼、小鳥遊宗太にとっては毎日のように聞いている日常の音だ。 ━━ガタン━━ゴトン━━ そう……瞳を閉じれば、まるであの騒がしくも平穏な毎日に戻ったような感覚を覚える。 あぁ、駅に着いたらバイトに行かないと……。 今日も小さくて可愛い先輩。 働かずに食材を食い散らかす店長。 表情が読み取りにくいけど、意地悪で。でも根はいい人で、可愛そうな佐藤さん。 最近は少し治ってきたけど……相変わらず男嫌いで殴ってくる伊波さん。 その他沢山の変人達との生活が……俺を待っているはずなのに……。 うっすらと瞳を開くと、目の前には無表情でこちらを見つめる佐山君の姿が見える。 先ほど彼の口から聞かされた事実……それをまだ俺は、受け入れる事が出来ない。 『蒼星石君と吉良吉影は……殺されていたそうだよ』 二人の安否を尋ねた僕に対して、佐山くんはそう言い放った。 少し俯いていたけど、とても淡々とした口調で。 自分で言うのもなんだけど……俺、小鳥遊宗太は小さいものが好きなだけのごく一般的な高校生だ。 人が実際死ぬところなんて見た事が無いし。 あの広い会場で首を吹き飛ばされた外人の女の人や、銃で撃たれた外人の男の人。 二人の死という事実さえどこか朧げで、現実だとは思えなかった。 あのラズロっていう変なモヒカン男に蹴り飛ばされて、銃を向けられた時だって…… 痛かった、怖かったけど。 なんて言えばいいんだろう……よく分からなかったんだ。 死という実感が、沸かなかったんだ。 結局自分は派手な服の男の人と、佐山君に助けられた……。 考えが甘すぎる……そう言われたら否定できないと思う。 けど俺は言ったんだ、佐山君に対して俺が思う事を。 「佐山君……二人の元に戻ろうよ。きっと俺たちを待ってるよ」 ◇ ◇ ◇ 「蒼星石ちゃん達は?大丈夫かなぁ、心配だなぁ……」 小鳥遊はそう言うと、腹部を摩りながらこちらを見つめてくる。 ……ここは本当のことを言うべきだろうか? 短い間だが行動を共にして分かる事……それは彼がおそらく未だこの状況を受け入れていないだろうという事だ。 佐山は腕時計へと視線を流す、11時30分……放送の30分前だ。 考えて見れば、ここに来てから私達はずっと運が良かったのかもしれない。 ラズロという男に襲われるまで、私達は殺し合いに乗った人間には会っていない。 大きなケガを負った参加者にも会っては居ない。 殺し合い開始からの6時間で15人が死亡した点から見ても、それは幸運としか言いようが無いだろう。 だからこそ……単なるサバイバル生活、どこかを探検しているかのような気分で居られたとしても、それは致し方ないことなのかもしれない…… 「言い訳だな……」 佐山は小さく、そう呟いた。 そう……彼自身でさえもラズロと戦闘を交わすまでは、どこか現状を甘く見ていた部分があったのかもしれないのだ。 えっ?と小鳥遊は首を傾げるが、それを無視。 佐山は拳を強く握り締める、爪が手のひらに食い込み、それが痛覚として脳に情報が伝わる。 本気を出すと誓ったのでは無かったのか? にも関わらず、私は何をしていた……蒼星石君達が殺されていたとき、私は一体何を……。 獏に夢を見せられていた……。 言い訳だ、戦闘が終わるまでの間ずっと過去を見せられていたとは考えられない。 音も無く、二人は殺されてしまっていた……。 それは有り得ない。ラズロという男は負傷していた、銃を使わなかったとしても、戦闘していた際の音は聞こえたはずなのだ。 ……要するに私は気を抜いていたのだ、ここが戦場であるにもかかわらず。 探している間も、小鳥遊君と話している間も、意識の一部は二階へと向かわせていたつもりだが…… 無意識のうちだとしても、本気を出していなかった事に変わりは無い。 「どうしたのさ、大丈夫?佐山君」 心配そうな小鳥遊の声が佐山を思考から引き戻す。 そして視線を上げる……いつの間にデイバック出したのだろう。 小鳥遊は抵抗もせずにダラリとしている獏を抱えながら、こちらを見つめている。 もう直に放送が始まる……現時点で隠す意味は無い、むしろ隠す事による不審を与えかねない……。 そして何より、小鳥遊に現状を理解させるため……佐山は口を開いた。 「蒼星石君と吉良吉影は……」 「えっ?」 「殺されていたそうだよ」 真っ直ぐ小鳥遊を見つめながら、佐山はそう言った。 小鳥遊は目を見開いて、その眼を震わせながらこちらを見つめている。 苦しいのだろうか。震える小鳥遊の手の間で漠は手足をジタバタと振ってもがいている。 「何を……言ってるのさ」 「聞こえなかったのかね、二人は殺されていたそうだ」 「そうだって……一体誰から聞いたの?」 「ストレイト・クーガー。先ほど私たちの命を救ってくれた男だ」 「き、きっと嘘だよ」 「嘘をつく理由は無い」 「だって……さっきまで、4人で同じ駅に居たじゃないか! 二手に分かれて……探していたじゃないか!」 小鳥遊は勢いよく立ち上がると、声を張り上げる。 それに対して佐山は、無表情で相手を睨みつける。 それが答えだ……と言うかのように。 それをみた小鳥遊は、力なく椅子へと座り込んだ。 小鳥遊が俯くと、力の緩んだ手から漠が滑り落ちる。 無事地面へと着地をした漠は、佐山の元へと駆け寄っていく。 それを受け入れるかのように右腕を差し出すと、俊敏な動きで佐山の肩まで駆け上っていった。 俯いた小鳥遊動かない……今ここで、小鳥遊には現状を把握してもらわなければならない。 急に理解をしろ、といっても難しい事は百も承知だ。 だが……それを受け入れない限り、この先を生きていく事は不可能だ。 佐山は立ち上がると、列車の後方へと視線を向けた。 列車の連結部のドア。その窓の向こうには誰も居ない車両が伺える……。 さらにその車両の向こうは……何もかもを飲み込んだかのような漆黒の闇が広がっている。 G-7駅を出発したときには5両あったはずの電車は既に残り2両。 ストレイト・クーガーによって後方3両は線路を逆走してどこかへと消えてしまった……。 ゆっくりと歩き、銀色をしたアルミのドアの前へと進むと、視線を上げた。 古ぼけた電子掲示板に「次は 廃坑 」と表示されている。 頭の中に地図を思い浮かべた次の瞬間、後方から小鳥遊の声が聞こえた。 「佐山君……二人の元に戻ろうよ。きっと俺たちを待ってるよ」 佐山は小鳥遊へと視線を戻した。 小鳥遊の瞳には力が無く、未だ縋るような視線をこちらへと向けている。 「小鳥遊君……それは一体どういう意味かね」 「クーガーって人は、きっと何か見間違えたんだよ。 それか嘘をついているに決まってる……」 「いい加減にしたまえ」 「佐山君こそ、どうしてそんな見ず知らずの人のことを信じるのさ!」 「普段私はあまり乱暴な言葉は使わないようにしているのだが……言わせて貰おう。 ━━現状を理解しろと言っているんだこの糞野郎」 佐山は表情を変えず、あくまで淡々と小鳥遊に言い放った。 「えっ」 「君は今、この場所がどんな場所だか理解しているのかね。 ……そう、殺し合いの場所だ。それも私たちが考えているよりも相当性質が悪い類のね」 「佐山君?」 「第一回放送で15人が死んだ……そして先ほどの二人を見て分かった事がある」 「……」 「ここには私の知っているどんな概念兵器よりも強力な武器を所持している参加者がいる。 目にも止まらぬ速さで移動できる手段を持っている参加者も居る、道具を無しでだ。 蒼星石君のように動ける人形もいれば、この手袋のように奇奇怪怪な道具まで存在する」 佐山は、自らの左腕が消滅したときに血で濡れた制服を、ラズロから奪い取った左腕を小鳥遊の前に突き出した。 「これを見たまえ。 私の血だ……私がラズロから奪い取った腕だ!」 「あ……」 「ここは殺し合いの戦場だ、次に死ぬのは私かも知れない、君かもしれない。 いいかね?あの二人は死んだんだ。死んだ人間は生き返る事は無い、どのような手段を用いようとも」 小鳥遊は自らの前に突き出された赤黒くなった制服と、佐山の体には合わない巨大な腕を虚ろな瞳で見つめる。 その次の瞬間、進行方向へと押し出される感覚が体を襲った。 ━━減速している。 そこに気付いてからの佐山の行動は素早かった。 すぐに小鳥遊を座席から引き剥がし、床に組み伏せる。 自身も身を低くして、小鳥遊の耳元で静かに。と呟いた。 徐々に減速していく列車、全神経を聴力へ、視界へと集中させる。 右腕の手袋を確認……今現在、武器と呼べるのはこの手袋だけだ。 もし参加者が居たら、有無を言わさず両腕を奪い取る。 相手には不信感を与えるかもしれないが…… 殺し合いに参加していないと判断できるのであれば返してやればいい。 もし乗っていると判断したその時は……。 やがて、列車は駅のホームへと滑り込んで止まった。 大きな音をたててアルミの扉が開く。 注意深くドアから、列車の窓からホームの様子を探った……。 誰かが居る様子は無い、駅のホームは見晴らしがよく、数個のベンチがあるだけだ。 人が隠れることができる障害物は見当たらない……佐山はこの場所が安全だと判断する。 「とりあえず降りる事にしよう、小鳥遊君」 「……うん」 小鳥遊は力なく返事をすると、佐山に引きずられるかのように列車の外へと出た。 ◇ ◇ ◇ 駅のホームは荒廃が進んでいる。 壁にはひびが入って、地面のタイルは所々が割れている。 時折ほの暗い地下鉄の路線から……低い重低音の、何かが遠くで崩れているような音が聞こえる。 一通りの安全確認を済ませた佐山は、力なくベンチに腰掛けている小鳥遊の隣へと腰をかける。 大きくため息をついたその時、隣から今にも消え入りそうな声が聞こえてくる。 「佐山君……」 「何かね」 「君はどうしてそんなに……落ち着いていられるの?」 「……」 「二人が死んだのだとしたら……悲しくは無いの?」 「如何してそう思うのかね」 「だって……」 「……二人が死んだのは、私の責任だ」 「えっ」 「私が二手に分かれようと言った、私が二階の様子に気づく事が出来れば……」 「そ、そんな事」 「これは私の責任だ、私が一生背負っていかなければならない業だ」 「……」 「私は確かに君よりはこういった場所に慣れているのだろうね。 命を失うかもしれない戦場に、身を投じていた事もある」 「え……」 「仲間が死ぬという事に慣れはしないよ……だが、死者に花を手向けるのは全てが終わった後でいい」 佐山はおもむろにデイバックへ手を突っ込むと。 水が入った500mlのペットボトルと、袋に入っている乾パンを取り出した。 「二回目の放送まで残り10分だ……食事を済ませようじゃないか」 バリッと袋を開けると、一欠けらのパンを取り出して口に放り込む。 「食欲……無いよ」 「食べるべきだよ、生き残りたいのなら。君の探している伊波まひるという少女に出会いたいのなら」 「伊波さん……」 「蒼星石君と吉良吉影が生きているのであれば……次の放送で名前は呼ばれないはずだ。 もし君が正しかったとしたら私は詫びよう。そして全力で二人の元へ向かおうじゃないか」 「うん……分かった」 小鳥遊はデイバックを取り出すと、佐山に習って乾パンの袋を力任せに開いた。 勢いあまって中身が少し飛び出すが……気にする事も無く袋に手を入れ、乾パンを口に放り込む。 殺し合いが始まってから……何も口にはしていないはずなのに、胃は食べ物を受け付けない。 唾液が吸われ、口の中がパサパサする……それを水で無理やり流し込み、次の乾パンを口へと放り込む。 ……二人は黙々と食事を続ける、一言も言葉を交わす事は無い。 佐山が肩に乗っている獏へと乾パンの一欠けらを与えた瞬間、 駅に備え付けられているスピーカーからザザッという音と共に忌々しい声が響き渡る。 ◇ ◇ ◇ ━━六時間たってもまだ生きている者がいたら、そのときまたお会いするとしよう」 数秒の沈黙が続き、プツッという音をたててスピーカーは沈黙した。 第二回目の放送が終了した……二人にとってその内容はあまりにも残酷で、これからの道が険しいであろう事を示していた。 「うっ……ぐっ……蒼星石ちゃん……吉良さん……ごめん、本当にごめん……」 小鳥遊は涙を流しながらそう呟くと、涙を必死にこらえるように震えている。 対する佐山は……驚愕の表情で放送内容を記したメモを見つめている。 ━━ストレイト・クーガー━━ 先ほどの放送の中に、確かに彼の名前があった。 ラズロに負けたという事なのだろうか……あの目にも留まらぬ速さをもってしても、この会場で生き残る事は不可能だという事なのか。 そしてもう一つ、ラズロ……やつの名前は名簿には存在しない。 偽名を使っていたという事だろうか。だが、未だ生きていると見たほうがいいだろう。 何故ならば闘っていたはずのストレイト・クーガーは死んでいるのだから……。 唯一の救いは……新庄・運切、彼女の名前が呼ばれなかった事だが……。 「小鳥遊君……そのままでいい、聞いて欲しい」 「うっ……うっ……」 「私が君と別れて、ストレイト・クーガーと共に君の前に現れた間の話だ」 ◇ ◇ ◇ ラズロの持っている銃、ソードカトラスから撃ちだされたAA弾により、佐山の左腕は消滅した。 突然の消滅、そして激痛に襲われた佐山は、とっさの判断で逆方向へと飛び退いた。 次の瞬間、先ほどまで佐山が居たであろう場所は、周りの物を巻き込みながら抉るように消滅している。 一体何が起きたのか……いや、そんな事よりも撤退をしなくては。 周りを見渡し、回避経路を…… そう考えている間にも、佐山の目と鼻の先が「持っていく力」によって消滅する。 一か八か……ラズロに向かっていくしかない。 一つの答えを導き出して、脚に力を入れたその瞬間。 目の前に突然派手な服を着た長身の男が現れる。 ━━誰だ?━━ その疑問が頭に浮かんだ次の瞬間、腹部に強い衝撃が加わって体はくの字へと曲がる。 そして周りの景色が凄まじい速さで塗り替えられていく。 見えるのは男の背中、佐山が男に担がれている。そう理解をしたその時。 その男は駅に程近い一本の木の根元へと佐山をおろした。 「ふぅ……何とか間に合ったか。 いや、間に合っては居ないな……すまないな少年、もう少し早さが足りていれば」 佐山の左腕からは、おびただしい量の血液が噴出している。 断面は鋭利な刃物で切り取られたかのようで、そこから来る激痛に顔を歪めていた。 「大丈夫だ、すぐに止血をすれば命は……」 長身の男が話しかけてくる。 その言葉を無視して、佐山は右肩にかけてあったデイバックを地面に下ろした。 右手を使って器用に鞄を開けると、手を突っ込んで中をまさぐり始める。 そして取り出した一つの手袋を、口を使って器用に右手へとはめ込む。 その右手を左手の肩口へと添えると、思い切り力を入れて引き出した。 左肩から傷口にかけて……まるで最初から取り外せるものだったかのように、あっけなく外れ落ちた。 「なっ……」 長身の男が驚愕を顔に貼り付けて目を見開いた。 「ふぅ……半信半疑だったが……まさか本当に取り外せるとは」 「おいおい少年、一体何をやったんだ!?」 「この『つけかえ手ぶくろ』を使ったのだよ。先程は助けて貰った様だ、礼を言おう」 「こいつはぶったまげたな……」 「本当はのんびりと挨拶をしたいところだが……私は戻らせてもらおう。 駅の二階に居る仲間があの男に殺されかねないのでね」 そういって駆け出そうとした佐山に、長身の男は言った。 「二階にはローゼンメイデンと人間の遺体があるだけだ」 佐山は目を見開いて、クーガーへと振り向いた。 「何故それを……」 「誤解はしないでくれ……俺が行ったときにはもう既に…… おそらく殺したのはラズロだ」 「ラズロ?」 「あぁ……さっきのモヒカン野郎の事さ」 「……小鳥遊君が危ない」 そう呟くと、駆け足で駅へと走っていく。 「待ちたまえ少年、俺の名前はストレイト・クーガー。 まだあの駅に仲間が残っているというのなら、力を貸そうじゃないか」 「……私の名前は佐山・御言。悪いがまだ君の事を信頼しているわけでh」 全てを言い終わる前に、クーガーは佐山を担いで駅へと走り始める。 「はっはっは!俺を信じられないってのならそれでもいい。 俺は俺が思うままに、お前の仲間を助けるまでだ!」 そうして目にも止まらぬスピードで駅へと戻った二人を待ち構えているのは、地下通路への階段。 おそらく小鳥遊はここへ逃げ込んだのだろう……ドアは拉げていて、その奥の暗闇からは物音が聞こえる。 「もう降ろしてもらっても、いいだろうか」 「佐山、これを持っておくてくれ」 「……何かねコレは」 「今は話している時間も惜しいだろう、後で読んでくれればいいさ」 それは一枚の紙だ、綺麗な四つ折でたたまれていて中を読む事は出来ない。 それを受け取って胸ポケットにしまった次の瞬間、クーガーは再び加速をして暗闇の通路を下っていく。 あぁ……吐きそうだ。 そう思いながらも、佐山はクーガーの顔を見る。 サングラスをしていて目を見ることは出来ないが……何か決意を秘めたようなその表情を見たとき。 佐山はこの男を信用に足りる男だと、そう思った。 ◇ ◇ ◇ 「ここから先は君も知っているだろう、列車に追いつき、壁をけり破って君を助けたという事だ」 「……」 「彼が嘘をついていたとは到底考えにくい……蒼星石君が人形だという事も知っていたし、 私と小鳥遊君の命を救ってくれたのだから」 小鳥遊は落ち着いたのだろうか、袖で涙を拭うと佐山を見て言った。 「そのメモというのは……」 「これだよ」 佐山が差し出したその一枚の紙、そこに記されていたのはただの一文。 『PM3時。4-C駅にて橘あすか、真紅と落ち合う』 「これは……」 「あぁ、仲間と落ち合う予定があったという事だろう」 「クーガーって人の仲間だという事は」 「危険人物である可能性は低いだろうね」 「……いくの?」 「それを含めて、これからの行動をどのようにするか……話し合おうじゃないか」 「……」 小鳥遊は俯いて、再び口を閉ざした。 「小鳥遊君、さっきも言ったと思うのだが。この殺し合いは私たちの想像以上に一方的なものだ」 小鳥遊は答えない。 「信じられない威力を持つ銃。目にも止まらぬスピードで移動できる者。また、そのスピードさえ捕らえることが出来る銃の使い手。 私たちからの常識からは逸脱している……未だあっていない参加者の中にも、そういった参加者は居るだろう。 事実、私たちの仲間は二人。殺されてしまった……。 後悔なら全てが終わってからすればいい……私たちにはまだやる事があるはずだ」 「え……?」 「新庄君と伊波まひる君はまだ生きている……」 「伊波さん……」 「何とか武器を手に入れて、彼女たちを守ってやるべきではないのかね」 佐山は小鳥遊を見つめる。 これは小鳥遊だけに言ってるものではない。そう、自分自身に対しても。 ━━佐山の姓は悪役を任ずる━━ 本気を出して、どのような過ちを犯そうとも、なんと罵られ様とも。 正しくも誤っているだろう……この道を進んでいく。 それが死んでしまった蒼星石、吉良吉影への償いだと信じて。 もう後戻りは、出来ないのだから……。 ◇ ◇ ◇ 「何とか武器を手に入れて、彼女たちを守ってやるべきではないのかね」 そう言った佐山の言葉に、後悔や悲しみに包まれている頭の中にとある人影が浮かび上がる。 最初は嫌だった、目を合わせるたびに殴られて。正直ワザとやってるんじゃないのかと……。 間違えたシフト組むなよ畜生!と店長に言いたかった事もある。 一つ年上の癖に、全然先輩らしくないし……。 彼女の男嫌いを治すよう言われたけれど、正直嫌だった。 けど、彼女と接していくうちに。段々と彼女のことが分かってきた。 無理やり褒めろと言われたから褒めたヘアピン……。 彼女はそれを大事にして、ヘアピンを毎日のように変えていて。 自分がプレゼントしたそれでさえ、大事に取っておいてくれているらしい。 片思いが上手くいかない佐藤さんに対して、本気で心配をして泣いていた彼女。 他人の為にここまで泣ける人を、俺はあまり見たことが無い。 自分のトラウマとして残っている女装暦……彼女はそんな俺を気持ち悪がることなく。 面白がって回りに広げる事も無く、何かあるたびに助け舟を出してくれる。 みんなにたきつけられてデートをした時だって、無理やり女装をさせられている俺に対して優しい言葉をかけてくれた。 小さいものこそ至上だと思っていた俺も、一瞬彼女のことをいい子だと思ってしまった。 有り得ない……屈辱だとさえ思ったけれど。 彼女もきっと、この会場のどこかで震えて泣いている。 男嫌いがたたって、男の人と行動を共にするのは難しいだろう。 つまりは、力がある男の参加者に守ってもらう事すらできないという事だ。 こんな恐ろしい場所で、彼女は一人震えているのだろうか? 助けなければいけない。 ただ純粋に、そう思った。 後悔や悲しみだけが支配していた体に、僅かに力がわいてくる。 視線を上げて佐山を見つめる小鳥遊は力強く頷いた。 「佐山君……探そう。伊波さんと新庄さんを」 ◇ ◇ ◇ 「では、状況を整理しようか」 「うん」 二人は地図を広げて、向かい合うようにして座っている。 「まず私たちの武器と呼べるものだが……この『つけかえ手袋』と」 「この秘剣”電光丸”だね」 「今、さらに詳しくメモを見て分かった事なのだが……この手袋にはどうやら、回数制限があるようだ」 「えっ」 「見たまえ」 佐山が差し出した紙を小鳥遊は手にとって視線を落とした。 表面には使用法や性能なのが載っているが、回数等は特に書かれていない。 「あれ。書いてないよ?」 「クリマ・タクトを思い出して欲しいものだね」 小鳥遊は首をかしげながらも、説明書を裏返す。 よく見てみれば、左下にとても小さい文字でなにやら書いてあるのが分かる。 メガネをずらし、裸眼で目元に近づけて睨みつけてみる。 『尚、取り外す事が出来る回数は5回までです。取り付ける事に回数制限はありません』 「詐欺だ……」 小鳥遊は顔をしかめつつ、そう呟いた。 「私の左腕、ラズロの左腕。すでにもう2回を使っている。 つまりは残り3回分ということだ」 「ここ一番で使わないと……あっという間に無くなりそうだね」 「……出来れば戦闘では使いたくは無いな」 「えっ?」 「考えてもみたまえ、損失した体の一部を他人の体を奪う事で補う事が出来る」 「そ、そんなっ」 「いらぬ火種を巻く事になる可能性はあるが……上手く使えば先ほどのように自身の一部の代用を作る事だって出来る」 「そうだけど……」 「しかし、この左腕……やはり使い勝手がいいものではない」 ぐるぐると左腕を回しながら、佐山は言った。 それに対して小鳥遊は首を傾げた。 「私とラズロでは体格が違いすぎるのだよ。それにこの筋肉質の腕……少々重過ぎる。 大体この腕はどうなっているのかが気になる。自分の思うとおりに動かす事が出来るうえ、触覚までも備わっているが。 血管が私と繋がっているわけでもない……実に不可解だ」 「そんなに重さって変わる……?」 「日常の生活には支障は無いだろう……だが、戦闘となれば話は違う。 私は重量級ファイターというわけではない、すばやく動くには体のバランスが崩れすぎる」 「……」 「出来れば私と似た体格の人間と交渉をして、腕の交換を……」 「佐山君、何を言ってるのさ!」 「ははは冗談に決まってるじゃないか落ち着きたまえ」 「……とてもそうは見えないんだけど」 ジト目で佐山を睨みつける小鳥遊に対して。 気にする事も無く佐山は口を開いた。 「そちらの秘剣”電光丸”に関して言わせて貰えば、小鳥遊君にうってつけの武器だと思うが」 「……そうかな」 「戦闘訓練を受けていない君でも、その剣を取れば達人とでも戦うことが出来るだろう。 そのうえ相手を無駄に殺傷する心配も無い」 「確かに、そうだね」 「だが、まだ足りない……私たちには武器が必要だという事だ。最低限仲間を守る事が出来る火力が」 「って事は、武器がありそうな場所に行くの?」 「その様な場所があるのならいいんだが……」 「見た感じ、無いよね。どうする?廃坑の周辺を探す?さらに地下鉄で移動する?」 「いや、もう地下鉄は使わないほうがいいだろう」 「え?」 「聞こえなかったのかね?放送前に響いていた重低音……あれは何かが破壊されている音だ」 「そういえば……」 「線路の状況を見ることは出来ないが……もしどこかで列車が走る事が出来ないような状況になっているとしたら。 それはすなわち脱線に繋がる、戦闘をするまでも無く君と私は仲良くつぶれたトマトのようになる訳だよ」 「……はは」 小鳥遊は乾いた笑いを浮かべて冷や汗を流した。 「だが、気になる事はある。何故地下鉄なんてものが存在しているのか……」 「何故って、移動するためじゃないの?」 「ここは殺し合いの場所だ、わざわざ隠した入り口まで用意して。 隠れるような事が出来る広大な場所を主催側が用意すると思うのかね」 「……佐山君が言ったんじゃないか。主催はサプライズを用意する物だって」 「これは明らかにサプライズの域を超えている。 迷宮程度ならまだしも、会場全域に張り巡らされている隠れ場所など。 臆病者の参加者が本気で隠れたら、見つけることは至難の業だと思うが」 佐山は古びた壁にかけられている。真新しいプレートへと目を向けた。 [E-2駅 ← 廃坑 → G-7駅] 二つの駅を結ぶ地下鉄……路線図等は見当たらなかった為全貌を見ることは叶わないが。 主要施設と駅をつなげているだけだとしても、広大な距離の路線があることになる。 「何事にも理由というものはあるものだ。 この広大な地下鉄を作った理由……私だとしたら一つしかないな」 「……そうか!」 「小鳥遊君も分かったようだね」 「これはあくまでカモフラージュ。そういうことだね」 得意げな顔で言った小鳥遊に対して、佐山は頷いた。 「その通りだ。地上ではなく地下にしか作らざるを得なかった物があるとしよう。 そしてそれはこの殺し合いに関してとても重要なものだ。だが主催者たちも作成や使用、調整をせざるを得ない為。 入り口は封鎖する事が出来ても消す事は出来ない」 「だから隠し扉を作った……けれど、もし見つかってしまった場合。それをすぐに壊されるのは主催にとっても困る」 「だからこその地下鉄だよ……地下空間はあくまで地下鉄のため、そう参加者に思わせるために作られたものだ」 「確かに、暗くて明かりの無い線路内に隠し扉があるとしても。参加者は地下鉄に乗っている限り見つけることは出来ない」 「しかしその可能性がある路線の長さは広大だ、探す事は出来ても多大なる時間をロスする事になるだろう」 「……でも、迷路探査ボールがあれば」 「ここでも有効なのか……私にもそれは分からないが。可能性はあるだろうね」 二人は目を合わせると、力強く頷いた。 お互いの目にもう曇りは無い。 「やる事は山積みだ、だが体は一つしかない。重要なのは何から片付けていくかという事だ。 一つ、新庄君と井波まひる君を捜索して保護する。 二つ、まずは強力な武器を見つけ、ラズロの様な参加者にも対抗可能な状況を作る。 三つ、地下鉄内には必ず何かある。それを探索する為にこのまま路線を捜索するか、ロロノア・ゾロと合流して迷宮探索ボールの使用権を得る。 四つ、午後3時までに4-C駅へと向かい、ストレイト・クーガーの仲間と合流をする。 勿論この中のいくつかを同時進行することは出来るだろう……だが、どれを最優先に行うか。 それはこれからの向かう場所、その場で起きる様々な事にも影響が及ぶだろう」 佐山は右手で4本の指を立てて。小鳥遊の目の前へと突き出した。 「佐山君、俺たちは……」 小鳥遊はまっすぐに佐山を見つめ、口を開いた。 ◇ ◇ ◇ 二人の青年は、大切な仲間の死を知った。 それは何の前触れも無く、唐突に……人の死というものは、いつでもそういう物なのかもしれない。 一人の青年は、自らを責めた。 一人の青年は、それを受け入れる事が出来なかった。 だが悲しみは乗り越える事が出来る、そして人は学ぶ事が出来る。 奇しくも仲間の死という事実は、二人にこの状況を正しく認識させ。 強い決意を生まれさせた。 これから二人がどのような道を進むのか……それは分からないが。 確実に今、再出発の一歩を踏み出そうとしている。 少し……ほんの少しだけ後ろを振り向く事もあるかもしれないが。 二人の青年は、真っ直ぐ前を見つめて。その小さな第一歩を…… 【H-3地下・地下鉄駅構内/一日目 日中】 【佐山・御言@終わりのクロニクル】 [状態]:健康、左腕欠損(リヴィオの左腕を移植) [装備]:つけかえ手ぶくろ@ドラえもん(残り使用回数3回)、獏@終わりのクロニクル [道具]:基本支給品一式(一食分の食事を消費)、空気クレヨン@ドラえもん [思考・状況] 1:これからの行動方針を決める。 2:新庄くんと合流する。 3:協力者を募る。 4:本気を出す。 ※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。 ※小鳥遊が女装させられていた過去を知りました。 ※会場内に迷宮がある、という推測を立てています。 ※地下空間に隠し部屋がある、と推測を立てています。 ※リヴィオの腕を結合したことによって体のバランスが崩れています。 戦闘時の素早い動きに対して不安があるようです。 ※地下鉄を利用するのは危険だと考えています。 【小鳥遊宗太@WORKING!!】 [状態]:健康、腹部に痛み [装備]:秘剣”電光丸”@ドラえもん [道具]:基本支給品一式(一食分の食事を消費) [思考・状況] 1:これからの行動方針を決める。 2:伊波まひるを一刻も早く保護する。 3:佐山と行動する。 4:ゲームに乗るつもりはない。 5:全てが終わった後、蒼星石と吉良吉影を弔ってあげたい。 ※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。 ※過去で新庄の顔を知りました。 ※獏の制限により、過去を見る時間は3分と長くなっています。 ※地下鉄を利用するのは危険だと考えています。 時系列順で読む Back UN-SYMMETRY Next カツラへの言葉 投下順で読む Back UN-SYMMETRY Next カツラへの言葉 Back Next Radical Good Speed (後編) 佐山・御言 境界線上の小鳥遊宗太 Radical Good Speed (後編) 小鳥遊宗太 境界線上の小鳥遊宗太
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俺は、たった今殺した男のディ・パックを漁っていた。 妙な体術を使い、つべこべと説教してくるうっとおしい男だった。 もっともこんな状況下で無駄口を叩けるだけの実力は持ち合わせていたが。 だがこの俺、サー・クロコダイルの悪魔の実の能力、『スナスナの実』の前では無力。 思っていたよりだいぶ時間は食ったが、大したダメージも受けずに勝利することができた。 「とはいえ……」 いくらか気になる点はある。 全身を砂にすればこのわずらわしい首輪も外せるかと思ったが、 どういう仕組みかこの首輪は砂になった俺の体(恐らく、この状態でも爆発すればただではすまないんだろう)の一部にぴったりついてきた。 首輪自体を干からびさせようとも思ったが、まるで効果が無かった。 まあ、これはそう気にする必要も無いだろう。 あの何とかって野郎は『生き残った最後の一人』と戦うとホザいてやがった。 こんな大掛かりな舞台をわざわざこしらえたことからしても、最後の一人になった俺をいきなり爆殺することはあるまい。 「……ん?」 ディ・パックの中身は俺のものとそう変わらなかったが、一つだけ妙な物があった。 それは、果物だ。紙切れにくるまれた、奇妙な果実だ。 紙を開くと、なにやら文章が書かれている。 『ウシウシの実:これを食べればアナタも驚きの牛人間に! パワー増強、角がついて三倍! 可:人間牛(やや小さく『注:カナヅチ』)』 悪魔の実か。 俺は一人頷くと、悪魔の実を懐にしまった。 男の死体を眺め、なぜこの実を食わなかったのか、と考える。 主催者から支給された食い物を警戒したのか、牛人間になりたくなかったのか。あるいは、何か信条でもあったのか? まあ、これを食われていれば、より始末は面倒になっていただろう。 俺は悪魔の実を掌で転がしながら考える。 悪魔の実は一人につき一つしかその能力を得られず、二つの実を食べた者は爆死するという噂がある。 まだ『王下七武海』に入る前には、よくそんな話を海で聞いたものだ。 俺の能力はこの『スナスナ』だけで十分だし、わざわざリスクを背負ってまでそれ以下のスカ能力を引くつもりもない。 これはあの麦わらにでも食わしてやるとしよう。 「麦わら……か」 俺は、自分の全てを奪った海賊、モンキー・D・ルフィの顔を思い出す。 俺が奴より弱かったことが原因、別に奴を恨んではいない。 だが、次にあったら殺したいと思っていたのは確かだ。 こんな形で機会が来るとは思っていなかったが……。 「クハハ……」 俺は笑いながら次の獲物を探すべく、干からびた男の死体を踏みつけ、街を目指して歩き出した。 【高槻巌@ARMS 死亡確認 残り64人】 【サー・クロコダイル@ワンピース】 【1日目 現時刻 深夜】 【現在地:H3廃坑】 【状態】:ダメージ(小)、やや疲労 【装備】: 【道具】:基本支給品一式、不明支給品1(確認済み)、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース 【思考・状況】 1 皆殺し 2 麦わらの一味はやや優先度高く殺害する 時系列順で読む Back 上空50メートル Next ニコラス・D・ウルフウッドの受難 投下順で読む Back 古城跡戦 Next エレガントにまロく! 『希望』 ウィッシュ 高槻巌 死亡 GAME START サー・クロコダイル 闘争と逃走と
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あなたに会いたくて◆b8v2QbKrCM どうして―― 呼吸をするたびに、口の端が赤く泡立つ。 ひゅう、ひゅう、と呼気の漏れる音がする。 肺が破れたのだろうか。 もしかしたら、気管が裂けたのかもしれない。 どうしてこうなってしまったんだろう―― 痛みが薄らいでいるのは幸いか。 それとも絶望から逃避できない不幸か。 所有者を死から遠ざける二つの力が、ナインの命を引き伸ばす。 どろどろになって燃え尽きかけた蝋燭が、ほんの数秒だけ燃え続けようとするように。 私は、ただ―― 失くした右手の切断面と、左胸の大きな穴から、致命的な量の血液が溢れている。 助かるはずがない。 生きていられるわけがない。 こうして思考できていること自体が、既に奇跡なのだ。 ただ―― ナインは感覚の喪失した四肢を動かして、頭の向きを僅かに変える。 リノリウムの地平の先には、もうひとつの赤い水たまり。 潰えようとするもうひとつの命。 潰えてしまったもうひとつのいのち。 あの優しい小鳥を―― その少女は、壁にもたれて座り込んでいる。 まるで木かげで休んでいるように。 まるで木もれ日でうたた寝をしているように。 たったひとつだけ、おかしなところがあるけれど。 小鳥を―― おなかから、赤くて黒いものが、顔をだしている。 びるのカベに入っていたてつのぼうが、赤くそまってかおをだしている。 うしろからフォークでさされたみたいに、3ぼんならんで。 ミコトのおなかは、やぶれていた。 助けたかっただけなのに―― ◇ ◇ ◇ 「魔王に挑む……無謀と知っての蛮勇か?」 大戦槍の柄が棄てられる。 がらん、という鈍い音が廊下に響いた。 「さぁ? どこの誰なのかしらね」 美琴はゼロから視線を逸らさず、次弾の発射準備を整える。 彼我の距離は十数メートル。 この距離からなら狙いを過つことはありえない。 しかしゼロは、ナインの右腕を足蹴にしたままで、悠然と美琴を見据えていた。 超電磁砲の威力を目の当たりにしながら、脅威を軽んじているのか。 それとも、対抗する術を既に見出してしまったとでもいうのか。 美琴の手元で大気が炸裂する。 音を置き去りに飛翔するコインの弾丸。 僅か百分の一秒のうちに距離を削り取り、ゼロの仮面を掠めて飛び去っていく。 「どうした。牽制では私を倒せないぞ」 ゼロは微動だにせず言い放った。 動かずとも当たらない――美琴が当ててこないと分かっていた、と態度が語っている。 美琴は内心で歯噛みした。 今の一撃でゼロとナインを引き離すつもりだったのだが、完全に見抜かれていたらしい。 考えてみれば当然のことだ。 ここで直撃させるつもりがあるのなら、初撃で槍を狙う意味がない。 ゼロ自身ではなく大戦槍を撃ち抜いた時点で、殺意のなさを白状しているも同然だ。 「次は当てるわよ」 「どうだかな」 デイパックから引き抜かれる白鞘の刀。 露わになる白刃に、美琴は思わず身構える。 振り上げられる和道一文字。 それと同時に、手首の返しで握りが逆手に変えられる。 「だが――意図は汲んでやろう」 「うぐっ……!」 真下へと叩き込まれた一突きが、あろうことかナインの手首を貫通する。 響き渡る苦悶の声。 美琴は思わず身を竦め、目を逸らした。 切っ先が前腕に通る二本の骨と関節の間の肉を貫き、床にまで突き刺さっていた。 これでは刀を抜かない限り逃れることができない。 まさしく磔である。 「アンタ……!」 「まずは貴様から排除する。異存はないな」 ゼロが一歩ずつ距離を詰める。 右足を庇って身構える美琴の前に、真紅が割って入った。 庭師の鋏を片手で把持し、鋭利な先端をゼロへと振り向ける。 「美琴……近付いてきたら……」 「分かってる……」 一歩、また一歩。 ゼロが悠然と接近する。 美琴と真紅はいつでも攻撃に転じられる態勢のまま、静かにタイミングを計っていた。 残された力は少ない。 どちらが勝利するにせよ、勝負は一瞬で終わるだろう。 十二メートル。 十一メートル。 十メートル。 爆ぜる。 ゼロの足が床を打った。 床材を粉々に粉砕する威力の反作用で爆発的に加速。 離脱など許しえない速度で間合いを塗り潰す。 「来たわっ!」 真紅が鋏を振るう。 薔薇の花弁が渦を巻き、一直線にゼロを迎え撃つ。 ここは直線の廊下だ。 赤き花弁から逃れる場所などありはしない。 ゼロが翻したマントに薔薇の奔流が直撃する。 飛び散る花弁の幕に阻まれ、ゼロはその速度を大きく減じた。 「そこっ!」 間髪入れず、美琴の腕がスパークする。 指に弾かれたコインが閃光の魔弾と化し、花弁の幕の中央を撃ち抜いた。 一瞬の間を置いて、衝撃波が花弁を吹き散らす。 「――なっ!」 真紅は思わず声を漏らした。 薔薇の花弁が散ったことで開けた視界には、あるべきものが存在しなかった。 「消えた!?」 いない。 ゼロがどこにもいない。 美琴は慌てて周囲を見渡すが、廊下のどこにもゼロの姿はない。 いかに薄暗闇に黒衣が紛れるとはいえ、完全に見失うなどありえないことだ。 しかも視覚のみならず、電磁波によってすら感知されなくなっている。 廊下から完全に消え失せた―― そうとしか捉えようのない事態であった。 「――そうだ、ナイン!」 美琴の思考が混乱から立ち直る。 何のために無茶な戦いを挑んだのか、危うく忘れてしまうところだった。 敵が姿を消した今のうちに助け出すべきに決まっている。 そう思い、美琴が駆け出した瞬間、ナインが叫んだ。 「逃げて! 早く!」 何を言っているんだ、と駆け寄ろうとして、不意に気が付く。 ナインは接近するゼロの後ろにいた。 ゼロが歩いてくるときも。 ゼロが突進した瞬間も。 ゼロが薔薇のベールに阻まれていた間も。 つまり目撃しているはずなのだ。 ゼロ消失の瞬間を。 背後で轟音が鳴り響く。 爆弾が炸裂したかのような衝撃と、冷たい爆風。 コンクリートの破片に晒されながら美琴は振り返り、目撃する。 外壁を突き破り、屋内への再侵入を果たしたゼロの姿を。 そして。 掬い上げるような拳に打ち据えられた真紅を。 「――真」 あまりにも軽過ぎる真紅の身体は、それこそ紙切れも同然に吹き飛んでいく。 中庭へ通じる窓に衝突し、砕く。 「紅――」 翻る黒衣。 鉄塊の如き腕が迫る。 声が喉から出るより遥かに速い。 美琴は瞬く間に顔面を鷲掴みにされ、勢いのままに床から引き剥がされる。 ――ゴッ 白いコンクリートの壁に、赤い飛沫が散った。 線の細い手足が跳ね、そして力なく落ちる。 砕かれたガラス片が時雨のように落ちる音がした。 壁伝いに、ず、と美琴の肉体が滑る。 かすれた絵筆で赤を塗ったような跡を残して、美琴はガラクタのように崩れ落ちた。 「……終わりだ」 ゼロは踵を返し、ナインへと歩み寄る。 あまりにも呆気ない結末である。 薔薇の壁に阻まれた瞬間、ゼロは即座に転移を発動させていた。 無論、あそこまで消耗した状態では、せいぜい一メートルか二メートルの移動しかできない。 しかし、病院の外壁を越えて屋外へ退避するには、それだけで十分であった。 ナインは依然と床に伏し、顔だけをこちらに向けている。 右腕は串刺しのままで、脱出を図った形跡すらない。 だが、その眼差しはゼロに向けられていなかった。 「――フン。しぶといものだ」 再度ゼロは振り返る。 一抹の驚きが混ざった、呆れ返ったような声色。 「まだ、終わってない……!」 薄暗闇に迸る雷光。 満身創痍で疲労困憊。 鮮血乱舞で頭蓋陥没。 それでもなお立ち上がる超電磁砲。 「終わりだ。その身体で何ができる」 ゼロは美琴に近付こうとすらしなかった。 むしろ、接近する必要性を感じていないというのが正確だろうか。 それもそのはずだ。 美琴は明らかに立っているだけで精一杯なのだから。 「……アンタを、倒すことなら……できるわ……」 強がりを言いながら足を踏み出し、すぐに転びかける。 後頭部から流れた血が後ろ髪を染め、首筋を濡らして服を血まみれにしていく。 足は容易くもつれ、ゼロが破壊した壁の淵に手を突いて、どうにか転倒だけは免れる。 誰が見ても戦闘不能。 いつ昏倒してもおかしくない。 それでも少女は、漆黒の魔王をまっすぐ見据えていた。 「なんで……」 消え入りそうな声でナインが呟く。 美琴は口の端を上げ――血まみれで分かりにくいけれど――微笑んでみせた。 「……逃げないって、決めたから」 「だが結末は変わらん」 漆黒の魔王が迫り来る。 美琴は壁に穿たれた穴の縁にもたれたまま、一歩も動こうとしない。 そもそも動くような体力すら残されていなかった。 眼前に迫ったゼロの仮面を、美琴は毅然と仰ぎ見た。 「満身創痍の身体を引きずって、どこまで無様に足掻くというのだ」 「どこまで? 決まってるじゃない……」 緩く握られた拳が、ゼロの胸を軽く叩く。 それほどまでに、両者の距離は近付いていた。 「最後までよ」 魔王の輪郭が残像と化す。 間近から振り抜かれた拳が美琴の脇腹に突き刺さる。 最下部の肋骨を砕き、臓器を押し潰し、文字通り体内へめり込んでいく。 拳が振り抜かれると同時に真横へ吹き飛び、水切り石のように地面を跳ねて、駐車場を横切ってようやく停止した。 下手をすれば三度は死にうる打撃を与えてなお、ゼロは追撃を緩めようとはしない。 アスファルトに残った血の道を踏み締め、生死すら明瞭としない標的へ接敵する。 「ならば最期を与えてやろう」 ぴくりと、美琴の腕が動く。 先ほどの一撃で脊柱まで痛めたか。 上体は起き上がろうともがいているようだが、脚は全く動いていない。 時折、電流の閃光が迸り、周囲の暗闇が淡く照らされる。 「理解出来たか。魔王に楯突くことが如何に愚かなことか」 「これくらい……何よ……」 放出された電流が駐車場を囲むフェンスにも伝播する。 放電の音にかき消されるほどにか細い声で、美琴は喋り続けた。 誰に聞かせるでもない、自分自身へ向けた言葉を。 「アイツはもっと無茶して……痛い思いして……」 腕を突き、少しずつ身を起こしていく。 額の周りで幾筋もの電流が集い、弾けて消える。 「それでも止めなかった馬鹿なんだから……」 魔王の足が、起き上がらんとした美琴の胸を踏みつける。 無造作な行為でありながら、それだけで胸骨が悲鳴を上げた。 このまま力を入れて踏み抜けば、肺と心臓が破壊されて死に至るだろう。 呼吸すら苦痛でしかない地獄の中で、美琴は叫ぶように言い放った。 「だから……私が諦めるわけにはいかないのよ!」 「――むっ!」 電流が迸り、フェンスの根元が次々と千切れていく。 幅二十メートルに及ぶ鉄製のフェンスが、さながら巨大な投網の如くゼロへ襲い掛かる。 ゼロは美琴への攻撃を止め、後方へ飛び退いた。 「この程度で私を捕らえ――」 魔王の視界の外で、美琴は頭上を飛ぶフェンスに指を掛けた。 ぐんっ、と美琴の身体が跳ね起きる。 捕獲など端から思慮の外。 次の一撃こそが本命――! 「あああああああああああああああっ!!」 炸裂する閃光。 渾身の電撃が地を揺るがせ、夜の闇を打ち払う。 灼熱したアスファルトは瞬く間に融沸し、導体という導体を電流が駆け巡る。 光と音の衝撃は遥か彼方にまで押し寄せて、静寂を根こそぎ薙ぎ払う。 眩い光は病院の内部にまで及び、ナインをも飲み込んでいく。 「う……っ!」 やがて放電は終わり、間隙に夜が染み込んでくる。 ナインは眩しさのあまり瞑っていた目を開き、美琴の姿を探した。 「美琴!」 美琴は雷撃の爆心地よりも手前で、人形のような手足を投げ出して倒れ伏していた。 フェンスに引きずられて、ここまで転がってきたのだろう。 負った傷は数えることすらままならない。 あまりにも痛々しくて、ナインは目を逸らしそうになってしまう。 けれど、それはできない。 命を掛けてあの魔王に打ち勝った彼女から、視線を外すことなど―― 「――貴様の力を見誤っていたようだ――」 してはいけない、声がした。 見上げれば、そこには影。 夜景を遮る巨大な影。 どうして思い至らなかったのだろう。 ナナリーとネモがマークネモを駆るのなら。 ルルーシュ・ランペルージにも同じことができるのだと。 その名は、ガウェイン。 「そん、な……どうして……」 機械仕掛けの巨人の肩に乗り、魔王ゼロは下界を睥睨する。 雷撃からゼロを庇ったと思しきガウェインは、既に大破寸前にまで追い込まれていた。 一方、ゼロ自身が受けた損害は極めて軽微。 仮面には亀裂が入り、外套は無残に焼けているが、肉体の消耗は殆ど見られない。 絶望――絶対の、終局。 それなのに。 「どうして……立つの……?」 それなのに、美琴は立ち上がっていた。 なぜ立つのか分からない。 どうして立てるのか分からない。 肉体の機能は殆ど潰えているだろう。 確かなことがあるとすれば。 彼女は明確な意志を持って立ち上がったということだけだ。 「私は貴女を利用しようとした……。 殺そうともした……それなのに、どうして!」 「……どうして、こんな悪党を助けるの……って……?」 美琴は、あははと笑った。 もしかしたら単なる苦悶の声だったのかもしれない。 けれどナインには、明るい笑い声にしか聞こえなかった。 「それでも……死なせたくないって言うお人好しが……いるから、かな……」 かしゃん、と小さな音がした。 廊下の奥から、小さな影が歩いてくる。 暗がりの中、小さな瞳が煌いている。 「ごめんなさい。遅くなってしまったわ」 謝罪の声が廊下に響く。 真紅が歩を進めるたびに、かしゃん、と音がする。 砕けた身体の破片が音を出す。 赤い衣装の上からでも、真紅の身体の破損は容易に見て取れた。 そして真紅は、美琴の横で寄り添うように立ち止まる。 「ラッドに会ったわ……。あすかは最期まで、あの子らしく生きていたそうよ」 「……そっか」 ゼロがガウェインの肩から飛び降りる。 今まで以上の殺意を滾らせ――しかしそれを美琴達には向けていない。 それどころか、半死半生の二人など眼中にないとばかりに腕を振るった。 「ラッド・ルッソか。よもや仕留め損なっていたとはな。 どけ――貴様らと遊んでいる場合ではなくなった」 「……どかない」 美琴はポケットから一枚のコインを取り出し、ゼロへ向けた。 真紅も鋏を構え、戦意を表す。 「勝ち目はないぞ」 ゼロの言葉は恐らく正しい。 今の美琴には電撃を放つ余力すらなく、コインを撃ち出せるかどうかも怪しい。 真紅は吹き飛ばされたときにデイパックを失い、残された武器は歪んだ鋏と砕けかけた身体のみ。 庭師の鋏をゼロへ突きつけ、真紅は凛と黒き仮面を見据えた。 「貴方も大切な人を失ったのでしょう」 「黙れ……」 ゼロは歩みを止めない。 「今の貴方は、その人に胸を張って会いにいけるの?」 「……黙れ……」 仮面を鷲掴みに、砕かんばかりの力を込める。 「私達は出来るわ。最後まで私らしく生きていたと!」 「黙れと言っているッ!」 魔王が駆ける。 真紅が翔ける。 刹那の交錯の果て、白い破片が粉々に散った。 奔り抜ける漆黒の輪郭。 繰り出される超電磁砲。 音速にも満たない微弱な狙撃は、掠めることすらなく虚空を貫く。 拳の砲弾が美琴を打ち据える。 砕かれた壁の断面へ叩きつけられ、捻じ切れた鉄筋が背中へ突き刺さる。 三十センチも突き出した三本の鉄筋が、肉を穿ち、臓器を破り、腹部を裂いて貫通する。 鮮血が間欠泉のように噴き出し、すぐに収まっていく。 戦闘の終結。 完全なる決着。 その瞬間、自身に生じる一瞬の隙を、ゼロは見逃していた。 「ルルーシュ!!」 「……っ!」 咄嗟に翳した左腕が、鋭い刃に刺し貫かれる。 激痛の中、反射的に繰り出した拳が穿ったのは、ナイン・ザ・コードギアス。 地に磔られていたはずの少女が、何故かゼロの腕を貫き、ゼロの腕に貫かれていた。 「よもや自らの手を……」 ナインの右腕は、前腕部の先端付近から完全に失われていた。 串刺しという戒めから逃れるために、己の骨肉を切り落とすとは。 左胸を貫かれたまま、ナインはぽつりと言葉を零す。 「思い出した……私はネモから、頼まれたんだから……。 ……貴方が何と言おうと、関係……な……」 「泥人形への義理立てか。下らん」 ゼロはナインの胸から腕を引き抜き、騎士の刃へ手をかけた。 ずるり、と血液が糸を引く。 床に崩れ落ちたナインには目もくれず、踵を返す。 ゼロの意図に呼応するように、ガウェインが崩壊寸前の機関を稼動させ、ハドロン砲の砲口を病院へ向ける。 「もういい、跡形もなく蒸発するがいい」 ◇ ◇ ◇ ――もう、痛みすら感じない。 消えていく鼓動。 消えていく体温。 消えていく視野。 消えていく感覚。 消えていく自我。 網膜に映る光景を、脳髄が理解しない。 ナインは本能のように、綺麗な光を放つソレに手を伸ばす。 右手はもうないから、左手を。 失くしてしまった左腕の代わりを伸ばす。 ナナリーの面影。 ナナリーの記憶。 黄金の鞘。 「黄金」という色も。 「鞘」という言葉も。 ナインの中では既に意味を成していない。 ただ、それがタイセツなものだという認識だけが、軋む肉体を動かしていた。 指先が鞘の表面に触れる。 冷たさも硬さも、もう感じない。 五本の指が鞘を手元へ引き寄せる。 ナナリー……―― 鞘を手にナインは動く。 血の海を這いずるように。 だが、ナインの身体はもう動かない。 左腕だけが地蟲の如く蠢いて、ナインを引きずっていく。 生命が抜け落ちた四肢に代わって、彼女の願いを叶えるために。 ソレに触れていると、身体が楽になった。 ナナリーと一緒にいる気がするからなのかもしれないけれど。 これを渡せば――が助かる気がした。 もはや正しい現状認識すらできていない。 確かな目で見ていれば、助かる傷ではないと理解できるはずなのに。 奇跡を待つしか手段がないというのに。 ナナリー……―― 血に塗れた――の――に、鞘を乗せる。 「助けて……」 ジークフリートに小鳥を託したときのように。 物言わぬ金色の鞘に祈りを託す。 「美琴を助けて……アヴァロン……」 赤き光が全てを押し流す。 壁を、床を、天井を、硝子を。 熔かし、掻き混ぜ、焼却し、塵に帰す。 少女の血も、肉も、骨も、髪も、記憶も、願いも―― 全てが消えていく。 私は、貴女のところへ行っても、いいのかな――…… ◇ ◇ ◇ 瓦礫と化した病院を後にして、ゼロは大通りを西へ進んでいた。 ハドロン砲で一階部分を吹き飛ばされた病院は、自重に耐えることが出来なくなり、瞬く間に倒壊した。 まさしく徹底的な蹂躙、徹底的な破壊。 もはや生存者は残っていないだろう。 人形は原型を留めぬまでに破壊し、首輪も奪い取った。 女二人は致命傷を与えた上でハドロン砲の業火に投じた。 ラッド・ルッソは辛うじて息があったらしいが、倒壊に巻き込まれて絶命したに違いない。 代償として、ガウェインは量子シフトによる召喚から十分と持たずに消えてしまったのだが、 仮にもう一度呼び出したとして、あの電撃で機能停止寸前にまで追い込まれた現状では、大して役に立たないだろう。 しかし結末だけを見れば完全なる勝利と称して差し支えあるまい。 「残るは一人……」 ナナリーを死に追いやった輩のうち、既に二人までは抹殺した。 あと、一人。 異形を誅し殲滅への烽火とする。 目的はナナリーの蘇生ただひとつ。 必要とあらば、誰であろうと排除するまで。 それなのに。 ――今の貴方は、その人に胸を張って会いにいけるの? 「……戯言を!」 ゼロは苛立ちを込めて路傍の塀を殴りつけた。 魔王の強力に耐え切れず、コンクリートの塊が一瞬にして砕ける。 「私はナナリーと同じ世界を生きるつもりはない。 光に照らされた世界で生きるのは、ナナリーだけだ……」 【E-5/路上(西)/一日目 夜】 【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】 【状態】:左前腕に幅広の刺傷、疲労(極大)、悲壮≪ルルーシュ≫ 【装備】:なし 【道具】:基本支給品一式×6、MH5×3@ワンピース、治療器具一式、防刃ベスト@現実、電伝虫@ONE PIECE×2、 忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、和道一文字@ONE PIECE、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの、 謎の鍵、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、首輪×3(サカキ、土御門、真紅)、ナナリーの遺体(首輪あり)、ビニール袋に入った大量の氷 螺湮城教本@Fate/Zero、トーチの火炎放射器@BLACK LAGOON(燃料70%)、不明支給品0~1個(未確認) 【思考・状況】 1:殺し合いに優勝し、ナナリーを生き返らせる。 2:異形(ミュウツー)は見つけ次第、八つ裂きにする。 3:『○』に関しては…… 4:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。 5:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。 6:『○』対する検証を行うためにも、首輪のサンプルを手に入れる。 7:C.C.の状態で他者に近づき、戦闘になればゼロへ戻る。 8:首輪を集めて古城跡へ戻る。 【備考】 ※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。 ※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石、蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。 ※会場がループしていると確認。半ば確信しています ※古城内にあった『○』型のくぼみには首輪が当てはまると予想しています。 ※魅音(詩音)、ロベルタの情報をサカキから、鼻の長い男の(ウソップ)の情報を土御門から聞きました。 ※C.C.との交代は問題なく行えます。 ※起動している首輪を嵌めている者はデイパックには入れないという推測を立てています。 ※北条沙都子達と情報交換しました。 ※ナイン、ラッド、ミュウツーの三人がナナリーの死に関わっていると確信しました。 ※ガウェインの制限はマークネモとほぼ同様です。 ただしハドロン砲を使用した場合は、再召喚までの時間が、一発につき二時間ずつ増加します。 ◇ ◇ ◇ 「そりゃあ最初は驚いたぜ? どうにか槍を引っこ抜いて必死に這いずってたら、窓ガラスぶち割って人形が飛んできたんだからよ」 崩落した病院の中庭で、ラッド・ルッソは饒舌に語っていた。 ハドロン砲の貫通によって芝生や植木は焼き払われたが、建物の崩壊には殆ど巻き込まれていない。 被害らしい被害といえば、破片と粉塵の嵐が吹き荒れて快適な環境ではなくなったくらいだろう。 「俺も見ての通りボロボロだったからな。あそこで殺しに来られたらヤバかったぜ」 あれから暫く時間が経ったが、ラッドの肉体は未だ傷だらけだ。 地面に突き刺さった巨大な残骸に背を預けて、どうにか座位を維持している。 時間を経てもこの有様なのだから、病院が破壊された時点での状態は筆舌に尽くしがたいものであった。 こうして生きているのも、両腕の損壊が比較的早かったため、辛うじて中庭まで移動できたからに過ぎない。 さもなければ、倒壊かハドロン砲に巻き込まれてトドメを刺されていたことだろう。 「あぁ、そうだ、アスカとかいう野郎のことを聞かれたな。そのまんま答えてやったぜ? お前らのそっくりさんを必死に追っかけてたから、間抜け面に一発ブチ込んでぶっ殺したってな!」 狂ったような笑いが中庭に響く。 しかしラッドはすぐに血を吐いて、笑い声以上の大きさで咳き込んだ。 酸素に満ちた鮮やかな赤色。肺の傷が開いたのだろう。 ラッドは肩に口を擦り付けて血を拭うと不機嫌そうに視線を投げた。 「聞いてねぇのか? 手前ぇが教えろっていうから話してやってるんだぜ? なぁ、電気女さんよぉ!」 視線の先には、瓦礫をあさる美琴の姿。 比較的平坦な中庭ではなく、崩れ去った西棟の残骸を黙々と探っている。 制服は破れ、血に汚れ、とにかく酷い有様だが、肉体の傷は不思議と影を潜めていた。 傷が消えてなくなったわけではない。 しかしどの傷口からの出血も止まっていて、行動への支障も殆ど見られなかった。 「喋る気が無いなら、勝手に語らせてもらうぜ。正直、腑に落ちねぇんだよ。 仲間の仇が目の前にいるってのに、殺そうとしやがらねぇ。手前ぇもあの人形もだ。 人形が俺を見逃したのはまだ分かる。もっとヤバイ奴が近くにいるんだからな」 そこで言葉を切る。 これ以上は語らずとも理解できるだろう。 美琴は瓦礫に両手を差し入れたまま、作業の手を止めた。 「仇はとるわ。でも……殺してなんか、あげない」 ラッドは眉を顰め、次第に破顔し、そして哄笑した。 「憎たらしいくせに自分の手は汚したくないってか! どうやって恨みを晴らそうか考えてたんで、返事も出来ませんでしたってことだな!」 今度は喀血することなく、思う存分笑い続ける。 肉体の再生がもう少し進んでいたなら、文字通り腹を抱えて笑い転げていたに違いない。 無視を決め込む美琴のことなど気にも留めず、只管に狂声を響かせる。 ――が、唐突に笑いを止めた。 訝しげに振り向く美琴を逆に無視し、何やら考え込むような顔付きになる。 そう、あの子は最期まで優しかったのね―― ラッド。貴方がどう思っても構わないけれど、私はあすかを誇りに思うわ―― 先に逝った人達に、胸を張れる生き方が出来たのだから―― 「先に逝った、ね……。さて、ルーアが惚れた俺はどんな奴だったかな」 少し時間をかけて考えよう。 どうせ、身体が治るまでは殺しもできないのだから。 「……見つけた」 美琴は急に黙り込んだラッドを放置し、瓦礫の中に腕を伸ばしていた。 ゼロと戦った場所を埋めるコンクリート塊の下から、何かを取り出そうと必死になっている。 肌が擦れ、血が滲んでも腕を引かず、それどころか更に奥へと突っ込んでいく。 美琴を救ったのは、ナインが遺した"全て遠き理想郷"の奇跡であった。 真名解放により解き放たれた真の力がハドロン砲の破壊を遮断。 その後"全て遠き理想郷"が体内へ取り込まれたことにより、重篤な傷が治癒。 今までの時間は全て再生に費やされ、意識が回復したのすらほんの少し前のことであった。 自分がどうして生きているのか、美琴は知らない。 けれど"誰かに助けられた"という実感だけは確かに覚えている。 そうでなければ、半死半生だったはずの自分が動いていられるわけがない。 だからこうして廃墟を彷徨っているのだ。 癒え切らない傷の痛みを抱え、もういない彼女達の面影を探すために。 「真紅……」 瓦礫の隙間から、腕がゆっくりと引き抜かれる。 粉塵まみれの手に握られた、二つの光り輝く宝石――ローザミスティカ。 美琴はローザミスティカを両手で大事そうに包み、胸に抱き寄せた。 混ざり合う二つの輝きは、魔的なまでに美しかった。 【真紅@ローゼンメイデン 死亡】 【ブレンヒルト・シルト@終わりのクロニクル 死亡】 【E-5/病院跡/一日目 夜】 ※病院は完全に崩壊しました。 ※美琴の電撃とガウェインのハドロン砲の影響が広範囲に伝わっています。 【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】 【状態】:疲労(極大)、全身に打撲と擦傷(中)、脇腹の切り傷(小)、左肩と右脹脛に傷(小)、後頭部挫傷(中)、 脇腹に打撲(中)、胴体に貫通傷×3(小)、全て再生中 多大な喪失感、強い決意、≪体内:全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero≫ 【装備】:薔薇の指輪@ローゼンメイデン 【道具】:基本支給品一式(水1/2消費)、基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認)、病院で調達した包帯や薬品類、 コイン入りの袋(装備中の物と合わせて残り90枚)、タイム虫めがね@ドラえもん、 真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン、 ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS、真紅の左腕(損傷大)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本 【思考・状況】 1:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。 2:人は絶対に殺したくない。 3:自分と関わり、死んでしまった者達への自責の念。 4:上条当麻に対する感情への困惑。 5:ラッドについては……。 【備考】 ※参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。 ※会場がループしていると知りました。 ※切嗣の暗示、催眠等の魔術はもう効きません。 ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。 ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。 ※危険人物などについての情報は真紅と同様。 ※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。 ※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。 ※全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあることを知りません。 【ラッド・ルッソ@BACCANO!】 【状態】:四肢損傷、全身複数個所骨折(中)、内臓損傷、腹部に深い傷、毒(小)、全て再生中、不死者化 【装備】:破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero 【道具】:なし 【思考・状況】 0:方針について一旦考え直す。 1:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。 2:ゼロは絶対に殺す。 【備考】 ※麦わらの男(ルフィ)、獣耳の少女(エルルゥ)、火傷顔の女(バラライカ)を殺したと思っています。 ※自分の身体の異変に気づきましたが、不死者化していることには気付いてません。 ※リヴィオとラズロの違いに気付いていません。また、ラズロ(リヴィオ)のことを不死者だと考えています。 ※ゼロのことを不死者だと思っています。 【全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero】 第四次聖杯戦争におけるセイバー(アーサー)の失われた宝具であり、召喚の触媒。 作中で登場する他の宝具とは違い、当時の地層から発掘された現物。 結局、作中ではセイバーの手に戻ることは無かった。 霊子に分解して体内に埋め込むことが可能で、セイバーの魔力を得ることで所持者に凄まじい回復力を与える。 セイバーのマスターがこの恩恵を受けると、即死級のダメージからでも即座に再生してしまうほど。 ただしダメージを無効化するわけではないため、受けた痛みは軽減されない。 真名を解放することで数百のパーツに分裂し、所有者をありとあらゆる干渉から"遮断"する。 この機能は防御というレベルではなく、この世界における最強の護りと称される。 時系列順で読む Back 砂鉄の楼閣(後編) Next 忘れてはならないもう一人 投下順で読む Back 砂鉄の楼閣(後編) Next 忘れてはならないもう一人 Back Next 砂鉄の楼閣(後編) 御坂美琴 裏表トリーズナーズ(前編) 砂鉄の楼閣(後編) 真紅 死亡 砂鉄の楼閣(後編) ラッド・ルッソ 裏表トリーズナーズ(前編) 砂鉄の楼閣(後編) ブレンヒルト・シルト 死亡 砂鉄の楼閣(後編) ゼロ 首輪物語(前編)
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進むべき道はいつもそこにある ◆Wott.eaRjU ――言葉が出ない。 それが今現在の橘あすかを言い表すにはぴったりな言葉だ。 出会って間もないけれども悪い人間ではなかったモンキー・D・ルフィとの別れ。 その時に感じた感情よりも更に色濃く、直ぐには収めることは出来ない。 相手を思いやる気遣いに多少掛けていたとしても、今のあすかはどうにも口を開く気にはなれなかった。 悲しいとは思う。当然だ。 自分の同僚、たとえプライベートでの付き合いは希薄だったとしても頼れる男が死んだ。 しかも数時間前に別れたばかりの……だけども叫ぶ事はしない。 元々大袈裟に感情を見せるタイプでもないと自分では思う。 だけども、それ以前の問題として我慢しなければ、と強く思った。 何故だろうか。決まっている……そうしているからだ。 彼女が、この自分の背丈半分にも満たない小さな少女がじっと耐えているからだ。 この場で知り合い、今までずっと行動を共にしている少女の背中が一段と小さく見えるのは気のせいだろうか。 「し、真紅……」 結局、彼女の名前を呼ぶ事ぐらいしか出来ない。 その程度の事しか出来ない自分自身がどうにも嫌になった。 別に自分が励ましの言葉を告げる義理もないというのに、何故か痛々しい程に。 ◇ ◇ ◇ 『――六時間経ってもまだ生きている者がいたら、そのときまたお会いするとしよう』 第二回目の定時放送が告げられた。 内容は大きく分けて二つ。 新たな禁止エリアの所在、そして死亡者の情報。 呼ばれた名前に知り合いのものがなかった参加者も居るかもしれない。 だが、生憎彼ら――真紅と橘あすかの二人には居た。 (クーガー……こんな時まで速さを求めなくてもいいでしょうに。まったく、あなたという人は……!) 背を向け、呆然としたように立ち尽くす真紅を心配そうに見やりながらあすかは思う。 途中で出会ったギルガメッシュ、そして前原圭一はこの時だけは意識から遠のいた。 ストレイト・クーガー。どんな時でも速さを追い求めた男の死が只、深く胸に突き刺さる。 衝撃は大きく、劉鳳の死を聞いた時にも劣らない。 いや、それ以上ともいうべきだろうか。 数時間前に出会ったクーガーの方が、より一層死んだという実感を感じられたような気がしたためだ。 首を逸らし、思わず窓の外を眺める。 相変わらずの口調で、クーガーが今にも顔を出してくれはしないかと淡い希望を抱いた。 だけども、それは叶わないことをあすかは知っている。 放送の内容を信じないわけにはいかない。 事実、先程紛れもない死を確認したルフィの名前はしっかりと呼ばれた。 わざわざクーガーに関して間違った情報を送る理由もないだろう。 したがってクーガーは――死んだのだ、確実に。 どういう死を迎えたのかはわからない。 満足して逝けたのだろうか、それとも無念さに塗れたものだったのだろうかと思うが直ぐに疑問は解ける。 こんな無益な殺し合いに呼ばれたのだ。 きっと無念だったのだろう。そうに決まっている。 兎に角、判る事は三人も居た、誇り高きHOLY部隊が只一人になってしまった事について。 自然と拳を握った。力強く、叫び声と代わって自分の感情を代弁するように。 (……やってみせますよクーガー、そして劉鳳。 HOLY部隊には未だこの僕が居る……その事をあのギラーミンという男に知らしめてやりましょう、絶対にね) たった一人の宣戦布告。 誰に聞かせる事もなく、己の胸底に潜ませる。 確かにA級のアルター能力者である劉鳳とクーガーの死は、B級のあすかにとって大きな衝撃だ。 だが、逆に考えてみれば自分が彼らよりも優れている証明と成り得る。 そう。この場でHOLYとしての義務を果たせば自ずと――。 心が昂ぶらない筈がない。死にたくはないという大前提に、ギラーミンの行いを一人の人間として許せない想い。 そこに自身の有能性のアピールが付け加わるのだ。 しかし、曲がりなりにも殺し合いの場所に依然として立っているわけであり気分は晴れない。 未だに目の前の真紅にも碌に話を持ち掛けられないのだからなお一層に。 (いつまでも此処に居るわけにはいかない、もっと他者との接触を行わないと。でも……僕は一体どうすれば) どうする事も出来ない自分が恨めしい。 桜田ジュンという少年に続いて、翠星石と蒼星石という名前も放送で呼ばれていた。 真紅の事が可哀そうだとは思う。 だけどもそんな言葉を掛けるだけでは、逆に何も言わない方がいいのではないかと考えた。 人形である以前に真紅はただの少女ではない。 彼女の話からすれば自分よりも永い年月を過ごしてきたらしいが頷けるものだ。 その証拠に真紅は一切取り乱してはいない。 桜田ジュンの時も、翠星石と蒼星石、更には再びルフィの名前を聞かされクーガーの死を知った今でさえも。 真紅は泣き叫ぶ事はせずに、一粒の涙も見せず、悲しさで両肩が震えている事もない。 いっそ取り乱してくれればそれ相応に対応するというのに……。 それが彼女の強さなのだろうとは思うが、逆にあすかは自分の取るべき行動を決めあぐねていた。 以前のあすかにはあまり見ることは出来なかった気の配り方。 覚えていないわけではない。第一回目の放送で、自分の何気ない言葉がルフィに気に障ったことは今も鮮明に覚えている。 全面的に自分が悪かったわけではないと思うが、確かに無神経であったのも事実だ。 二の轍は踏まない。ただ、そう思いながらあすかは真紅の次の行動、そして言葉に気を配る。 上手くやれるだろうか。この場で真紅とギクシャクした関係はあまり望んではない。 出来れば円滑に会話が通じるくらいに関係が望ましい。 そう。今までの関係が続けば――自然と全身に緊張が走った。 何故なら唐突にそれは起きたのだから。 目の前の真紅が急に振り返り、その小さな口を開きだす。 薄桃色の、幼さと大人びた雰囲気を混ぜ合わせたような唇が嫌に印象的だ。 そして言葉が紡がれる。 「……クーガーは遠い場所へ行ってしまったようね」 そうですね。心なしか小さな声であすかは答える。 表情は暗い。どちらが? 勿論、両方ともだ。 直ぐに重苦しい沈黙が二人の間に生まれる。 やはりこうなったか、とあすかは半ば納得するがそれでどうするかといわけでもない。 ただ、言うべき言葉に迷うしかない。 そんな時、真紅がまるで見透かしたように言葉を続ける。 「辛いことだとは思うのだわ。だけど……私たちは立ち止まるわけにはいかない。それだけは忘れてはいけないのだわ、あすか」 「え……? え、ええ……」 意外だった。 真紅の口から出た言葉は悲しさを訴えたものではない。 どちらかというとあすかを気遣う言葉。 依然として気品さは失われていないその表情に弱気は見られない。 吸い込まれそうな程に済みきった、蒼色に輝く瞳が今もじっとあすかを見つめている。 思わず眼を逸らしてしまった。同時に奇妙な息苦しさを感じる。 覚えがある感覚。世界で一番大切な存在であるキャミィと知り合ったばかりの頃、何度も何度も身体に走ったようなものだ。 何をバカな――脳裏に浮かんだ感情を否定し、視線を戻す。 目の前には変わらない真紅の表情が浮かんでいる。 「それと言っておきたいコトがあるのだわ」 「なんですか?」 「……翠星石と蒼星石の名前が呼ばれたコトについてよ」 ついにきたか。今のうちに慰めの言葉を探している自分が哀れに思える。 だが、真紅はそんなあすかを特に気にしていないような様子を見せている。 「私たち、ローゼンメイデンはローザミスティカを一つずつ持っている。翠星石と蒼星石にも当然あるのだわ。 そしてもう一体のローゼンメイデン……水銀燈にローザミスティカを渡すわけにはいかない」 凛とした真紅の表情に変化はない。 告げた内容はローザミスティカ、ローゼンメイデンにとって何よりも大切なものについて。 あすかには聞いたことがある。 確か真紅達はそれを集めているのだと。 殺し合いともいうべき、“アリスゲーム”と呼ばれる戦いで。 だが、それよりも大切な事があるのではないか。 「だから今後は今まで以上に貴方の力をあてにさせてもらうのだわ、あすか。 水銀燈があの子たちのローザミスティカを手に入れていたら厄介だもの」 口を挟みたい。 その思いはだんだんと強くなっていく。 依然として平然とした様子の真紅を見ると無性に。 何故なら―― 「真紅ッ!」 「……なに?」 いつもと変わらない彼女の顔と、そして言葉を聞くと疑問が湧いた。 どうして、どうして変わらない―― 「……翠星石と蒼星石の二人が呼ばれたんですよ? どうして、あなたはそんな平気でいられるんですか……?」 まるで“何もなかった”ように振舞う真紅があすかはどこか痛々しく感じてしまった。 真紅を気遣ったわけではないかもしれない。ただ、抑えられそうにもない疑問を吐き出したかった。 詳しくは知らないが、彼女ら二人が真紅の姉妹である事は知っている。 人形だろうが家族である事に変わりはない。 それも一人ならまだしも二人同時にだ。 あすかには真紅が何故、これほどまでに冷静さを保てるのかわからなかった。 本当に彼女達の死について特に思う事がないのであれば、悪いが自分は真紅を見損なうだろう。 そんな事すらもあすかは思っていた。 そして真紅の表情に変化があった。流石に驚いたのだろう。 身体の割に大きな瞳をさらに見開く。 見返してやる。 自分は間違った事は言ってない。無言でそう言い聞かせるように、真紅を睨む。 しかし、意外にも真紅が取った行動は返事ではなかった。 くいくいと、まるで犬に伏せの合図をするかのように手を上下させている。 良い気分はしないが真紅の背丈を考えれば仕方ないかと言い聞かせる。 しぶしぶ腰を落とし、真紅と目線を合わせるがまだ真紅の指示は終わっていない。 今度は右を向けとの事だ。相変わらず自分勝手だな――そう思いながらも、一応従ってはみる事にする。 その時、ふいにあすかの左頬に何かが触れた。 「い、いたあああああああああぁぁぁー!?」 触れたもんじゃない。横殴りに叩かれたのだ。 真紅が自身の金髪の髪を、まるで鞭のように振るったのが事の原因と言える。 かなりの衝撃だったため、思わず情けない声を上げてしまった。 以前にもこんな事はあった。そう、あの時はルフィと一緒にやられた。 平手ではない。たかがツインテール状の髪の毛とは馬鹿に出来ない衝撃。 その犯人は両腕を前に組み、見開いていた眼を細めている。 じとーと冷ややかな視線を浴びせてくる少女人形、真紅がいましがた武器に使った自分のツインテールを丁寧に直す。 「な、何するんですか!? あなたはいつもいつも言葉よりも手が出て――」 「うるさいのだわ」 すっと腕を前に翳し、真紅がそう言い放つ。 抗議の言葉を口にしていたあすかは思わず言い黙ってしまう。 いつもこんな調子だ。 真紅に理不尽な暴力を受けるのも、そしてペースを握られてしまうのも。 悔しいとは思うがどうにも言い返す事も出来ない。 そうさせるだけの雰囲気が真紅からは感じられた。 不機嫌な様子かはわからないが、少なくともご機嫌というわけでもなさそうだ。 続けて疑問の言葉が心なしか、少し語気が強まった口調で真紅の口から零れ出る。 「あすか、あなたにはそう見えているのかしら? 私が本当に平気でいる……あなたには本当にそう見えて?」 言葉に詰まる。 どうにも首を縦に振れない。 ただ、さっきまでの自分とは違うことは判る。 そう、先程までは真紅が一体何を考えているのかが全く判らなかった。 だけども今では真紅の感情が少しは判ったような気がしている。 やはり、これは――悲しみだ、間違えようもない。 たとえ直接的な言葉を口に出さずとも、今の真紅を見ればそう思わずにはいられなかった。 同時に自分はつまらないことを聞いてしまったのだと自覚する。 悲しくないわけがなかった。単に真紅は悲しみを自分の中だけにしまっておいたというわけだ。 それを自分はわざわざ――気分の良い事ではない。 謝りの言葉を言うべきか。 一瞬の逡巡を経て、あすかはやはりそうするべきだと考える。 「だいたい、私はこれでも臆病者なのだわ。あの子達の名前が呼ばれたコトを気にしないわけがないじゃないの」 「へ、へぇ……意外ですね。あなたが自分からそんな可愛らしいコトを言うとは」 「あすか、それはどういう意味かしら? まったく、失礼するのだわ」 だが、生憎タイミングを失ってしまった。 他愛もない会話に留まり、あすかは真紅の不機嫌そうな眼つきから目を逸らす。 やはり真紅は強い。何故こうまでも強くなれるのかと疑問に思う程に。 ふと、あすかは想像を張り巡らす。 真紅が言っていた契約、もしそれに同意すればもう少し彼女を知ることが出来るのではと――しかし、直ぐに否定する。 (い、一体何を。別に真紅のコトが気になっているというわけでもないのに……) そんな想像は意味がない。 契約とは真紅に力を分け与える意味でもあり、今以上に自分の負担が増える。 そこまでする義理はない。大体、真紅の事を必要以上に気にする必要もないのだ。 けれども、何故だか動揺は直ぐには収まらず、冷や汗すら出てきたかもしれない。 真紅に気取られぬように、あすかは極めて冷静に努めようとする。 幸いな事に真紅は特に気付かなかったのだろう。 直ぐにあすかから目を放し、すたすたと歩いていく。 その先は図書館の出口。 ドアノブがついた、古風なドアが其処にあった。 「さぁ、そろそろ行くのだわ。支度をしなさい、あすか。無駄にしていい時間はなくってよ」 方針は既に決めてある。 取り敢えず三時ぐらいまではこのあたりの探索。 そして今はもうクーガーは居ないが、列車で会場を見て回ることは未だ有益な事だと思える。 あすかもその点は同意だ。 故に急いで真紅の後を追い、彼女の後に図書館のドアを通ろうとする。 その時、不意にあすかは気がついた。 「あら?」 真紅が少し驚いたような声を上げて、頭上を見上げた。 上に映るものは出入り口付近の図書館の天井の一角。 しかし、真紅と天井との間に顔を出すものがあった。 「気が利くわね。少しだけ見直したのだわ」 「それはどうも」 真紅がその小さな腕をドアに触れる先にあすかが手を伸ばしていた。 最初の出会いを経て、真紅がとある民家のドアを開けることが出来なかった小さな事件。 きっとあの事を覚えていたのだろう。 礼を言われてないせいか、少し気恥ずかしそうな顔を浮かべながら、あすかは静かにドアを開けていく。 徐々に差し込まれる、昼下がりの日光が真紅の小さな顔に差し込む。 眩しさのあまり、真紅はほんの少しだけ眉を顰める。 (翠星石、蒼星石……お疲れ様なのだわ) 思い浮かべるのは大切な姉妹達。 アリスゲームにより戦う運命にあろうと愛する気持ちは変わっていない。 たとえ、彼女達が動かぬ人形になった今であろうともだ。 彼女達と過ごした日々の記憶は消えることはない。 自分が彼女達と同じく、この殺し合いに脱落する時、歯車が止まってしまうその時までは絶対に。 だから、今は進まなくてはいけないと真紅は思う。 (あなたたちのローザミスティカ……あなたたちが生きた証を見捨てるコトは出来ない。 水銀燈、いいえ彼女だけじゃなく誰にも渡しはしない。私が必ず持ち帰ってみせるのだわ) ローザミスティカを集める。 それは究極の存在、“アリス”への近道。 図書館で見つけた不思議の国のアリスという童話の主人公と同じ名前。 お父様、ローゼンが追い求めしアリスを目指すのは真紅とて第一の目的だ。 翠星石と蒼星石が脱落した今、結果としてはアリスへの道が縮まったと言えるかもしれない。 だが、どうにも喜ぶ気にはなれない。 そもそも真紅は姉妹同士で戦うことに乗り気ではなかったのだから。 しかし、ローザミスティカを放置するわけにはいかない。 あれはアリスへの欠片であると同時にローゼンメイデンの全てだ。 人間と同じように生き、永い年月を賭けて学んだ全てが詰まっている。 軽いものではない。そう、あれはローゼンメイデンの誇りを手に取れる形にしたもの。 彼女達の誇りというべきものを素正の知れぬ人間、そして水銀燈預けるわけにはいかない。 もし、そうなるのであれば自分の手元に置こう。 たとえ翠星石と蒼星石が望まないとしても、誰かにローザミスティカがいいように利用されるだけ事はされて欲しくない。 依然として冷静さを貫いた表情の裏に、真紅は人知れず覚悟をうちたてる。 (私はあなたたちの妹で良かった。心かそう思うのだわ、翠星石、蒼星石。 だから、私は歩いてゆく。これから先、私を待っている道はきっと平坦のものではないわ。だけど……諦めたくはないのだから) 既にこの場に残るローゼンメイデンは二体。 水銀燈とは昔のように手を取り合う事はきっと出来ないだろう。 だけども、一人ぼっちというわけではない。 少し正確に難があれど、あすかは悪い人間でもない。 それにたとえ一人であろうとも真紅は何もせずに止まるつもりはない。 何故だかジュンとの契約が解かれ、契約の指輪に鈍い光が残っていようとも。 翠星石と蒼星石が果たせなかった想い――それら全てを背負う覚悟は出来ているのだから。 (ローゼンメイデンの第五ドール、真紅……私は生き残ってみせるのだわ。 そう、ローゼンメイデンの誇りに賭けて――絶対に) そしてドアが完全に開けられたことで、今まで以上の光が真紅の顔に振りかかる。 だが、真紅に動じる様子はない。 眩しさを感じるよりも心地良さの方が勝っているといったところだろうか。 太陽の光にも負けない、誇らしげな表情が映える。 誇り高きローゼンメイデン第五ドールの、いつもと変わらぬ微笑がそこにあった。 【D-4/図書館/一日目 日中】 【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】 【状態】:健康 【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本。 【思考・行動】 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。 2:引き続き情報収集をする。 3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。そのため3時までは辺りを探索、その後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。 4:ループを生み出している何かを発見する。 5:誰かと契約したい。しかし誰でもいいという訳ではない、あすかが望ましい。 6:翠星石、蒼星石のローザミスティカを手に入れる。 【備考】 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降) ※あすか、クーガーと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っていますが、参加時期の相違の可能性を考え始めました。 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。 ※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー ※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラ(ルフィ) ※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド(名前は知らない) 無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める) ※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。 【橘あすか@スクライド(アニメ版)】 【状態】:腹部に軽い痛み 【装備】:HOLY部隊制服 【所持品】:基本支給品一式、螺湮城教本@Fate/Zero、不明支給品0~2個(未確認) 【思考・行動】 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る。 2:引き続き情報収集をする。。 3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。そのため3時までは辺りを探索、その後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。 4:ループを生み出している何かを発見する。 5:真紅が気になる……? 【備考】 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作5話辺り) ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました(アリスゲームは未だ聞いてない)。 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。 ※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー ※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラ(ルフィ) ※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド(名前は知らない) 無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める) カズマとアーチャーは気に食わないので、出来れば出会いたくもない ※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。 ※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。 時系列順で読む Back 第二回放送 Next 太陽-The Sun- 投下順で読む Back 第二回放送 Next 太陽-The Sun- Back Next ALteration In Closed Eden 真紅 誰かの願いが叶うころ(前編) ALteration In Closed Eden 橘あすか 誰かの願いが叶うころ(前編)